第15話「サイダイノカンジョウ」2

 葵と椎奈はデートをしている善と翔子を追っていた……が。


 カフェではテラス席でゆったりと雑談に興じており、時折善の冗談で笑っていたりスイーツの感想を言い合ったりと良い雰囲気だった。葵と椎奈は離れた席でその様子を見ている。


「ねぇ椎奈ちゃん。あの空気はなにかしら?」


はたから見たらただのカップルでぷしゅぅ〜」


 椎奈ちゃんのほっぺを両手で挟んで潰した。それ以上言わせないから。でも善君も翔子ちゃんもいい雰囲気なのは間違いない。


「ははは、それで翔子ちゃんはどうしたんだ?」


「ねぇそれ春巻き食べてるよって言ってやったの!あはは!」


 善君が時折見せる屈託のない笑顔は、私だけのものであってほしいなんていう我儘。


 私だけに…向けて欲しいなんて言ったら彼はどんな顔をするのだろう。


 複雑な顔で見つめている葵の姿を見て、椎奈は悪戯っぽく話した。


「葵先輩、諸星先輩が本当に取られちゃったらどうしますか?」


「椎奈ちゃんを殺す。」


「何なの…この人。冗談ですよ。でも、葵先輩は何か行動してますか?」


「…してるわ。」


「どんな?」


「きせ」


「ちなみに寄生虫見せたり変なの食べさせたりすることは行動とは言いませんよ。」


「ゔぃ……。」


「あ、移動するみたいですよ。午後はアクアリウム展へ行って解散のはずです。」


 アクアリウム展は入場料500円。安い。


「わぁ…これ綺麗……」


 巨大水槽で作られたアクアリウムは緑の水草と光と小さな魚で彩られ、翔子は見惚れていた。その純粋な笑顔と眼差しに、善はなぜか胸が高鳴った。


「よ、よかったな。記念に写真撮ってやるよ。撮影可って書いてあるし。」


「ありがとうございます!」


 幻想的な背景に姫が映る素敵な写真だ。善はそっとそれをお気に入りにしたのだった。


 大丈夫、間違えて消さないためだと自分の心に嘘をついて。


「もしよければおふたりで撮影しませんかぁ〜〜い?」


「「え?」」


 そこにいたのはスタッフの姿をした慎二だった。


「おま、お前何してんだここで?部活は?」


「休みだよ。さ、並んだ並んだほれ!」


 慎二に急かされ二人は流されるまま手が触れる位置にまで近づいていた。


「撮るぞー?」


 ツーショットでは、照れて赤面するスポーティ姫と目が泳ぐ乗せられた男が写っていた。まんざらでもない様子の二人に慎二も安心している。


 葵はその様子を見て俯いて離れたベンチに座り込んでしまった。翔子だけは葵が椎奈と共に尾けてきていることに初めから気づいていたため、わざと視線の先に進み…そして


「ふっ」


 笑ったのだった。勝ち誇ったかのように。この時葵と椎奈は気づいた。自分達は初めから罠にかけられていたのだと。友達に見栄を張りたいからデートをしたいなどというのは方便で、真意は善を狙っていたのだ。


 慎二もグルで。


 二人はここで解散し、デートは終わりを告げていた。しかし、葵と椎奈だけは未だに動けなかった。


「ぐっ……くっ…」


 様々な感情で拳を握って震える葵。


 椎奈は気まずい空気の中で帰りたいと神に祈った。


(おお仏様、寝ていらっしゃるのですか)


 葵の心は後悔、悔しさ、嫉妬


 そしてその三つを燃やした対抗心。


「椎奈ちゃん…」


「インタビュー(拷問)はダメですからね」


「私、負けないわ。この恋、絶対諦めない!」


 力強く輝く瞳に、椎奈の胸はときめいた。まだお互い高校生。だというのにこんなにも恋に燃えて向き合う人がいる。


 そして最後にこう思った。かっこいい…と。


「応援しますけど、キモいこと無しですよ?」


「やだ。けど、この恋は負けたくない。」


本当真っ直ぐにキモい人だなぁ。












 そして帰っていく二人を見つめる慎二は険しい表情だった。


「翔子の恋心の邪魔はさせない。」

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