恋茶、結構なお手前でございました

DITinoue(上楽竜文)

恋茶を点てる

 この英界小学校には、「お茶クラブ」がある。クラブ活動は四年生から参加し、グランドゴルフ、ホッケー、テニス、将棋、生け花、カルタなどなど、いくつかあるクラブの中から一つ選ぶ。そして、一カ月に一回、火曜日に活動するのだ。

俺は、おばあちゃんが茶道の先生で、良く教えてもらってた。でも、俺には才能がないのか全く上達しなかった。だからこそ、お茶クラブに入ったのだが、これと言った成果はない。


ところで、俺——佐間琢磨さまたくまは、片思いをしている真っ最中だった。学年の中で、まあまあ目立つ方の副会長、漆間紗菜うるしまさなに。てか、俺も副会長なのだが。二人ともお茶クラブなのだが、一度も彼女にお茶を点てたことも、点てられたこともなかった。ちなみに、俺の恋愛のライバル、小海琢斗こかいたくともお茶クラブなのだが・・・・・何とか勝てる、俺はそう信じている。


 これから、お茶クラブが始まる。僕らは部室・・・・・児童クラブの和室へ向かった。担当教師に和菓子代を払うと、講師の先生、小泉詞華こいずみしかさんに声をかけた。

「なんとか、なりますよね。お願いしますよ」

「フフッ。大丈夫、任せておいてください」

小泉先生は任せておけと胸を張った。大丈夫だろうな?


「今から、最後のお茶クラブを始めます」

部長の琢斗が号令をかける。

「お願いします」

みんなはいつも通り、平伏した。

「それでは、いつも通り始めましょうか。先に、入れる側の人、行ってください」

先に彼女がお茶を点てる番だから、席を立つ。

「それじゃあ、和菓子回していきますよー」

隣の人から和菓子が回されてきた。

「おさきです」

そう、次に回す人に言う。その“次に回す人”が琢斗なのだが・・・・・。

羊羹を取ると、琢斗に回した。フッっと彼は不敵な笑みを僕に向けてきた。

――なんかウザいな。

そう思ったけど、俺は気にせずに、と思って菓子切りを使って羊羹を食べ始めた。


紗菜はお茶を点てた後、僕・・・・・ではなく、なんと琢斗に茶を差し出した。

嘘だろ?!と思って、小泉先生を見る。先生もオロオロしているみたいだ。だが、それを止めることはさすがにできない。

「ふぅ」

思わず、茶室でため息が漏れる。まあ、僕が紗菜にお茶を点てれば何とか挽回できるかも・・・・・。

「それでは、和菓子を食べていた人は一回やめて、お茶を入れましょう」

仕方なく、僕は立ち上がって、お茶を入れ始めた。


 ではでは、お茶を点てていくところだ。

サササササササササッ

上手くなったなぁ、自分。しっかりとお茶を点てていく。だんだん茶筅を上にあげて行って、大きな泡を消していく。そして、終わると茶の上に「の」の字を書いて締めくくる。

琢斗を見ると――彼は、紗菜に茶を出していた。まあ、それは当然なのかな。俺は仕方ないから、さっき俺に茶をくれた女子にやる。

「お手前拝見いたします」

目の前の女子・・・・・羽田井可乃子はたいかのこはそう言って受け取り、飲み始めた。

ズズッ

お茶を飲み終わったようだ。ズズッという音を立てるのは、「美味しかった」の意味だ。

「結構なお手前でございました!」

可乃子はそう言ってくれた。

嬉しかった・・・・・でも、心残りがあった。


 和室を出ると、可乃子が近寄ってきた。僕は少しドキッとしたが、そのままでいた。


――何を隠そう、可乃子は俺の“初恋の相手”で、一度フラれた人だから。


「ねえ、たっく。あのね、私・・・・・」

彼女は顔を赤くしながら必死に言葉を続ける。

「たっくが好きなの・・・・・前はフッちゃったけど、本当はこれでよかったのかって思ってたの。だから・・・・・いい?」

こ、告白!!!!ホントは今日俺が告白するつもりだったのだが!!


(どうする?ここはせっかくだし、受け入れるか?紗菜は・・・・・?)

そこまで来た時、俺は考えた。紗菜に当たっても、実らないことは確実な気がする。いや、でも・・・・・。

「ねっ」

彼女は今すぐに抱き着いてきそうな勢いで近寄ってきた。片目はウインクだ。

ドクドクドクドク

こんなに鳴ってるってことは・・・・・俺は分かった。俺は、今でも可乃子が好きなのだ。


「うん。コチラこそよろしく」


恋茶、美味しかったかな?

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恋茶、結構なお手前でございました DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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