第43話 ミケ・キサラギ

 わっちがユキの機嫌を直してヴィリーの家に行くと、3人の子供たちはヴィリーのあぐらの上で猫団子になって眠っていたでありんす。

 日はもう沈みかけていて、夕日は赤に近いオレンジで縁側を包んでいたでありんす。

 「ヴィリー、子守り押し付けて悪かったでありんすね。」

 わっちは猫の姿のまま、ヴィリーの膝に「スリッ」と頭突きした。

 すると、悶絶したヴィリーが

 「おめぇの話の続きをしてやってたらコレだよ。もう足がやべぇんだ!刺激すんなよ!」

 と、顔を歪めた。

 「にゃーん。(ヴィリー様、ご迷惑をおかけしました。)」

 わっちの後ろを付いてきていた幸も、そう言いながらヴィリーの膝に「スリッ」とした。

 「ぐおおおおおっ…!」

 多分、ヴィリーの足に電気が走って、それでもうちの子達を起こすまいとしているとわかったでありんすが、わっちは『猫』でありんすから、前足でわざと「ギュッ」とヴィリーの足を踏んだ。

 「それは無理ーーー!!!」

 ヴィリーが足を崩すと、それに驚いた息子たちが飛び跳ねた。


 黒猫・ユキはヴィリーに頭を下げ、仔猫3人を連れて『寝床』に帰って行ったでありんす。

 「おじちゃーーん!またねぇーーー!」

 「ニャーン!」

 「ニャーン!」

 と、ヴィリーに言いながらクリクリの目をした。

 足の痺れが切れたヴィリーは、4人を見送る為に立ち上がり縁側で手を振りながら

 「おめぇ、ホントにあの子らと一緒に住まなくて良いのか?」

 と、聞いてきた。

 わっちは人の姿になって

 「いいんでありんすよ。あの子らは野良猫でありんす。自分の住む場所も居場所も自分で決める方がいいでありんす。わっちの様に『誰かに頼る事』しかできない、誰かが引いてくれた『幸せになるレール』を歩くだけじゃだめなんでありんす。わっちは、わっちに色んな経験をさせてくれたヴィリーの様にならなきゃあの子らは強くなれないでありんす。」

 ヴィリーは少し寂し気な顔をしながらわっちを見る。

 「経験…か。俺は無理矢理おめぇを天界ここに連れてきちまった。それはおめぇのおっかさんの『願い』を叶える為だ。だが、おめぇにとってそれが正しかったのか分からねぇ。おめぇさんはまだ人間界にいたかったかも知んねぇのに…と思ってる。」

 「わっちはこの家が良いんでありんすよ。ここに来れた『経緯』なんて、どうでもいいんでありんす。『今、わっちがここにいられる』、それが大事なんでありんすよ。」

 わっちは着物の袖口から扇子を出して

 「人間界もいいんでありんすがね…わっちにはちょっと合わなかったでありんす。わっちはもう『バケモノ』として虚勢をはるのはめんどうでありんすから。」

 と、扇子で口元を隠しながら笑った。

 「まぁ、おめぇは人間に『災厄』を振りまくより、『福を招く』方が向いてるからな。」

 と、ヴィリーは笑いながらわっちの頭をワシャワシャ撫でた。

 わっちはヴィリーの手を振り払い、

 「人の時にその撫で方はやめてくりゃれ!猫の時も嫌でありんすが。」

 と、言って髪型を直した。

 ヴィリーは袖口からキセルを取り出し口でくわえて

 「しかし、まさか『サチ』が天界ここに生まれ変わって来るとは思わなんだ。まぁ、おめぇは毎日『左手』で『顔』ばっかり洗ってたからなぁ。『招いてた』のか?」

 と、言いながら、キセルの雁首がんくびを左手で支え、右手の人差し指の先に出した火を火皿に入れた。

 「お前さんはいつも訳の分からない事を言うでありんすね?わっちだって初めて『ユキ』に逢った時は驚いたでありんすよ。魂の「色」が『サチ』と同じだったんでありんす。その魂の色が見えた時、わっちは目を疑ったでありんすよ。『サチ』は戦国時代の人間界に転生すると思ってたでありんすから。」

 わっちは、もう見えない黒猫の行く先を見ながら言うと、ヴィリーが驚いた顔をして

 「何だ、おめぇ自分が何の力を持ってて、何の種族なのかまだ知らないのかい?その『魂の色』を識別出来る力と『招く力』はおめぇの一族に与えられたモンだ。それがなけりゃ『特定の者』に『福』を…。」

 と、言うヴィリーの口を人差し指で止めて

 「別にわっちが何の一族だろうと、今となってはどうでもいいでありんす。わっちにどんな力があろうがなかろうが、わっちはわっちでありんす。『天界の住人 ミケ・キサラギ』であることには変わりないでありんす。」

 と、扇子を閉じた。

 ヴィリーはちょっと嬉しそうな顔をしながら

 「それはおめぇは今『幸せ』だと思ってるって事で良いのかい?」

 と、言われたから

 「そうでありんすね。わっちは今、幸せでありんすよ。」

 と、言って笑い、そして

 「仕方ないからこれからも一緒にいてやるでありんすよ。」

 と、言った。

 「生意気だな、おめぇは。まぁいいや。そろそろ月も出る頃だな。」

 ヴィリーはそう言うと、いつの間にか机に用意されていた徳利に入っている酒を盃に注ぎ

 「飲むか?」

 と、わっちに差し出した。

 「貰うでありんす。」

 わっちが盃を受け取ると、ヴィリーは自分の盃にも酒を注ぎ、

 「生意気にも大人になったミケに。」

 と、言って乾杯を持ちかける。

 わっちはクスッと笑って

 「生意気は余計でありんす。」

 と、盃を掲げた。

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うちのミケ様は招き猫【三毛猫奇譚】 NAO @nao3__

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