樹上多次元世界の神について

●神の解釈

 並行世界は想像力を現実化することで生まれるため、宗教の信仰対象や神話に登場する神が実在する並行世界が存在する。

 この事実は他の並行世界を観測する第2並行世界の宗教界において大きな波紋をもたらした。特に一神教は自分たちのあがめる神が別の並行世界では実在し、しかも複数存在すると科学的に証明されてしまったため、神に対する解釈の更新を余儀なくされた。


 結果、どの一神教も「神とは良心の象徴、あるいは人が善くあろうするための指針である」と解釈し、他の並行世界で実在する神は「自分を神と思い込んでいる超能力者」と見なした。


 強大な力を持とうと、通常の生命を超越した存在であろうと、実在かつ意思を持つ存在ならば、それは”個人”である。個人はどれほど公平を務めようと、他と独立した個である以上はその思想、価値観には偏りが生じる。それは祈りを捧げるべき対象でないと第2並行世界の一神教は考えた。


●大いなる良心と巨大な悪心

 第2並行世界の一神教は否定するが、樹上多次元世界において神と悪魔に近しい超自然存在が観測されている。それが〈大いなる良心〉と〈巨大な悪心〉である。

 どちらも樹上多次元世界全体の人の集合無意識から生まれた存在であり、〈大いなる良心〉は良心の集合無意識から、〈巨大な悪心〉は悪心の集合無意識から発生したと思われる。

 

 〈大いなる良心〉と〈巨大な悪心〉は集合無意識から生まれた都合上、確固たる個としての知性を有していない。わかりやすく例えるなら、どちらも数え切れないほどの膨大な人格を有する多重人格者のようなものである。そのため、一つの個人として見るならば、矛盾するような価値観が同居している場合もある。

 

 例えば〈大いなる良心〉の内部では「悪人であろうと贖罪の機会を与えるべし」と「悪民は速やかに抹殺すべし」という考えが同居している。一方、〈巨大な悪心〉の内部では「人類絶滅こそが最大の悪事」とする考えと、「人が永遠に悪事を行えるよう、人を守るべき」とする考えが同居している。


  どちらの超自然存在も樹上多次元世界に生きる人々に対し、大小さまざま干渉を行っている。〈大いなる良心〉の干渉を受けた者は英雄として他者を助け、あるいは社会に大きな貢献を果たそうとする。また〈巨大な悪心〉の干渉を受けた者は敵役として、様々な悪事を社会に知らしめようとする。

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