第五伝 VS 廃病院ゴーストナーススケバン
「ってかさ、ウチのシマに土足で上がり込むなんてどういう了見なわけ~? 何しにきたの? 名前は?」
矢継ぎ早に質問された八雲は取り敢えず立ち上がると、パッパと脚の埃を払う。
「俺は文月八雲、ここにどんな傷でも治せる人が居るって聞いて来たんだ。貴女がその人だと嬉しいんだが…もしかして幽霊?」
足は付いてるが若干透けてる翔子は、キョトンとした顔をするとすぐに笑い始めた。
「アハハッ、ちょ、何その質問~! ちょ~ウケるんですけど!! 見りゃ分かるじゃん、どっからどう見ても幽霊っしょ、てかウチ空飛べるし」
見て見て、とその場でクルクルと回転する翔子、その異様な光景に八雲は絶句する。
(俺の知ってる幽霊と違う…)
暫く八雲の周りを回った翔子は、八雲の目の前で上下逆さまの状態で止まる。
「あ、で何だっけ~傷治して欲しいの? ん~でも見た感じケガしてなさそうだけど…」
再びクルクルと八雲の身体を見回すと、横に降りて顎に手を当てう~んと唸る翔子。
「いや、治して欲しいのは俺じゃないんだ、俺の他にもここに来てる人がいるんだが───」
その時階段を登ってくる足音が響いた。振り返ると、現れたのは愛宕だった。
「お前は…白鳥二香ではなく文月八雲か、さっきの叫び声はお前か? 下まで響いてたぞ」
「え? やだ恥ずかしい」
急に女の子みたいな反応を見せる八雲。
「って傷はもう大丈夫なのか?」
愛宕の傷も相当なものだったが、彼女は普通に動いている。
「いやかなり痛い、今もギリギリって立っている状態だ、それより、ここにスケバンが居ると聞いて、取り敢えず声のした場所に向かってきたんだが、その看護師がそうなのか?」
右手で八雲の横にいる翔子を指差す愛宕。
「え、まさかその傷で闘おうってのか? やめておいた方がいいんじゃ…」
あまりの戦闘狂っぷりに八雲は呆れる。
「なに、右腕なら自由に使える、蓮水瑠衣には遅れを取ったが、次は負けない」
本気かよ…と横にいた翔子をチラリと見るとかなり怒っていた。
「ウチ、怪我してるのに無理に動く人見るとちょーイラつくんだよね…翔子ちゃんもう激おこプンプン丸だよ」
意外にもナースらしい事を言う翔子に八雲は感動する。
「おぉ…ようやくマトモな人間が出てきてくれて俺嬉しいよ…幽霊だけど」
「ここはウチに任せろし、八雲っちは後ろに下がっていてよ、ウチに任せれば余裕のよっちゃんだから」
やっぱりマトモじゃないかも、と思いながら八雲は後ろに下がると、二人を見守る。
「泉坂愛宕だ、怪我はしているがこれはハンデにしておこう」
「口明方翔子ちゃんで~す、怪我してるのに放置してる人は嫌いで~す、べ~!」
舌をとんがらせる翔子を見て、愛宕と八雲は同時に同じ事を思った。
((子どもか))
「お前だって怪我を放置しているだろう、服に染みたその血の痕はなんだ」
「ああ、これペイント、雰囲気出るっしょ?」
愛宕が指摘すると翔子はあっさりと答える。
「ペイントだったのか…」
八雲は一人呟くと翔子の後ろ姿をジト目で見た。
「雰囲気…か、この世に幽霊など存在しないのだからそんな雰囲気が出た所で私は怖がらないぞ、どこかの誰かさんは怖がったみたいだがな」
チラリと八雲の事をみる愛宕、どうやらお見通しのようである。
「…もしかして愛宕っちってビビり?」
愛宕の発言に少し違和感を覚えた翔子がなんの気なしに聞いてみた。
「は、はぁ!? 言うに事欠いて私がビビりだと!? そんな訳無いだろう!!」
翔子と八雲は同時に同じ事を思った。
((図星か))
「ふ~ん、まあそれならウチにも色々やりようはあるかな」
「勝って私をビビり呼ばわりした事を後悔させてやる」
今、
廃病院ゴーストナーススケバン 口明方翔子
VS
錯覚トリックアートスケバン、泉坂愛宕
いざ尋常に、スケバン勝負!!
「まずはこちらから行かせて貰うぞ!!」
勝負が始まるのと同時に距離を詰め、拳を叩き込もうとする愛宕。
勿論既に能力の使用により位置はズレて見えている。
対する翔子は拳を避ける為か両手を広げ後ろにゆっくりと倒れた。
愛宕の拳が翔子の鼻先を掠める。
「今日はよく避けられる日だな───え?」
初撃を避けられ溜息をつく愛宕から素っ頓狂な声が出た。
目の前の翔子が地面に全身から倒れたかと思いきやそのまますり抜けたからである。
フロアには愛宕と観戦者の八雲の二人きりしかいない。
「何だ? 目の錯覚なのか…? それとも口明方翔子の能力か?」
取り敢えず翔子が倒れた辺りの地面を踏み抜く。
ボガァッ! と凄い音を立て、ヒビが入る床、慌てて八雲が止めた。
「危ないって! タダでさえ廃病院なんだからそんなことしてたら倒壊するぞ!!」
「建物よりもこの勝負だ、それより今の光景を見てあまり驚いてないようだな、翔子の能力を知っているのか?」
辺りを警戒している愛宕に八雲が答える。
「あ、そういや愛宕は聞いてなかったか、翔子が幽霊だって事」
幽霊という単語に途端に挙動不審になる愛宕。
「ゆ、幽霊だと? 馬鹿を言え、そんな事があるわけがない、現にさっき私達は口明方翔子と会話をしていただろう」
「まあそうなんだけどさ…でも今翔子が床をすり抜けた所見ただろ?」
「いっいや、それは口明方翔子の能力に違いない! そうだ、文月八雲、お前は騙されているんだ、大方この廃病院の雰囲気にでも飲まれたんだろう、そんな嘘を信じるなんてお前は将来壺でも買う事になるぞ!! 私は買わない! 何故なら私は壺に興味が無いからな!」
八雲に指摘された途端、愛宕は訳の分からない事を捲し立てながら、八雲に詰め寄った。
段々と愛宕の呼吸が荒くなってくる。
依然、翔子は現れる気配がない。
「口明方翔子の能力は壁や床をすり抜けられる能力だ!! ああ、そうに違いない!!」
愛宕は無理やり自分を納得させると右手で顔をパンパンと叩く。
「しっかりしろ私!! 幽霊なんてこの世にいやし───わひゃあっ!!」
突然飛び上がり八雲に抱きつく愛宕を、慌てて八雲が受け止める。
「うわっ!! 何だ!?」
「い、今背中をひんやりした何かが撫でた! 私は服を着てるのに!! 直に!!」
八雲に抱きつきながら後方を確認するも誰もいない、プルプルと震えながら八雲から離れようとするが、身体が硬直してしまって動かない。
「いいい今のも口明方翔子の能力だな! 壁や床をすり抜けられるなら服如きすり抜けられない道理はない! ッハァー…!ハーッ!」
一方、抱きつかれてる八雲は両腕を万歳したまま、愛宕に声を掛ける。
「あの~愛宕さん? 大丈夫?」
「わァッ!! 耳元で話し掛け───」
愛宕が八雲の声に反応した瞬間、タイミングを狙っていた翔子が天井から逆さのまま八雲と愛宕の顔の間に降りてきていた。
更に顔中の血が増えていた翔子と目の鼻の先で目が合う愛宕。
「───キュウ…」
何やら変な断末魔の音を発すると愛宕は気絶した。
力の失った愛宕を八雲は慌てて支えると、呆れながら翔子に目を向ける。
「おいおい、いつの間にペイント増やしたんだよ…」
「にひひ、イケてるでしょ? これでウチの勝利だよ~!!」
クルンと半回転して地面に着地すると八雲に向かってVサインを決める翔子。
「ああ、愛宕には悪いが、こりゃ翔子の勝ちだな」
応じるように八雲も親指を立てると、翔子も親指を立て八雲の手にくっ付けてきた。
「バッチグー!!」
スケバン勝負これにて決着ッ!!
勝者、口明方翔子!!
◇◇◇
スケバン図鑑③
なまえ:口明方翔子
属性:廃病院ゴーストナーススケバン
能力:触れた物の傷を治す事ができる。ただし回数制限あり
備考:死後、流行りがアップデートされていないため、死語をよく使ってしまう
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