第3話 旅の友情

 僕達は城を抜けてから数分が経った。

 糸青君達が調達してきてくれたランプを頼りにホラーゲームさながらの先の見えない真っ暗な森の中を歩いていく。


「まさか聖女が俺達の味方をしてくれるはな。

 とはいえ、俺達の立場からすればいてもいなくても変わらないだろうが、あの国が持つ俺たちの印象は悪い。

 今日は徹夜でも歩くぞ」


 糸青君が先立って進んでくれている。

 その後を僕達はついていく。

 どうやらこのメンバーのリーダーは糸青君であるみたいだ。

 そこについては異論なし。


「にしても、おいら達、皆に対して悪いことしてると思うんだけど、その反面この先のことにワクワクしてる」


「僕もだよ。とはいえ、この先は自分達でどうにかしないといけないからそれなりに苦労も多そうだけど」


「で、でも、やっぱり冒険って感じで好奇心が溢れてくる」


 僕達は今の状況をどこか楽しんでいた。

 それはさながら子供の時に裏山で秘密基地を作るような感覚に似て。

 そういえば、幼馴染あの二人とも昔そんなことしたな。


 そんな浮かれる僕達を一歩引いて戒めるように糸青君は告げた。


「だが、もうこれからは自分達の命は自分で守らなきゃいけない。

 そして、俺達の戦力は唯一の前衛職である堅持を除けばほとんど無力に等しい。

 だから、少しは危機感を覚える方がいい」


 確かに、僕達は自ら後ろ盾であったクロード聖王国を捨てた。

 ということは、糸青君の言った通り自分の身を守れるのは自分だけ。

 でも――――


「もし皆が困ってたら僕は助けになりたいかな。まぁ、僕がどれだけ役に立つかわからないけど」


「そんなことないよ。おいらは律の魔法陣のおかげで助かってるよ」


「僕も......仲居君に畑の手伝いしてもらったことあるし、何も戦うことだけが助けじゃないんじゃないかな」


「そうだな。俺達4人は運命共同体みたいなものだ。

 そう考えれば仲居の考えはその通りともいえる」


「糸青君、どこか大人びてああいってるけど、実は一番今を楽しみにいろんな準備をしてたんだよ」


「か、薫!? 何を急にバラしてんだ!?」


 花街君の唐突なカミングアウトに珍しく動揺する糸青君。

 そんな彼を僕と康太がニヤーっとした顔で見ると糸青君は恥ずかしそうに顔を赤らめそっぽ向いた。


 元の世界では同じ教室にいたけどあまり話したこと無かった。

 でも、いざこうして話してみればあんがいわかりやすいのかも。

 それに花街君も慣れたら意外とおしゃべりみたいだ。


 それから僕達は不安や好奇心を堰を切ったように言葉で伝えあった。

 今という暗い気持ちと時間を払拭するように和気あいあいとした雰囲気で。


 そんな時間はなんだか修学旅行の時の班行動みたいで楽しかった。

 お互いのことを知れたというのが大きかったのかもしれない。


 そんなこんなで途中休憩しながら歩いているといつの間にか外が明るくなって来ていた。

 歩きっぱなしだった割には話していたせいかあんまり疲労は感じてない。


 その時、一人の腹時計が音を鳴らした。


「あ、ごめん。おいら、お腹すいちゃったみたい」


「ははっ、気にしなくていいよ。丁度僕もお腹すいてきたし。二人はどう?」


「そうだな。しばらく歩きっぱなしだったからここらで朝食でいいだろ」


「なら、何食べる? といっても、保存食の干し肉あたりはあんまり数が確保できなかったから、途中で食料は確保しなきゃいけなくなるけど」


「それは朝食食べ終わった後に移動しながら見つければいいと思うよ。

 幸い魔物との戦闘は出来るようになってるし。解体も含めて」


 というわけで、僕達は糸青君と花街君が集めてくれた食糧で朝食を満たしていく。

 康太がどこか物足りそうな顔をしていたので、ちょっと僕の分を分けてあげながら。


 そして、全員の体力が回復すると歩き始めた。

 そこからの移動で少し変わったこととすれば、このメンバーの指揮官が変わったことぐらいか。


「ねぇ、このギザギザした葉っぱはどう?」


「これはハクナ草だね。食用としてもいけるけど、あんまり美味しくないかな」


 今の指揮官は花街君である。

 花街君は自身の役職と相まって植物に詳しくなっているのだ。


 もとより花とか珍しい植物というのが好きみたいで、自前で買ったという植物図鑑を片手に僕たちの食糧担当をしてくれている。


「こっちも一匹良い獲物が手に入った」


「やっとおいら魔物相手にはあんまりビビらなくなってきた」


 僕が花街君の指揮下で食用の植物を探していると森の奥から大き目な猪を枝に括り付けて運ぶ糸青君と康太が戻ってきた。

 この二人は食肉を獲って来てくれる担当だ。


 そして、僕達は進みながらそんなことを繰り返し、二日目の夜がやって来た。

 僕達は捕らえた猪を血抜きして解体し、焚火で焼きながら目指すべき場所の話を始めていく。


「一応誘った身としてこの先の進路を考えてあるから聞いてくれ」


 そう言って糸青君は地図を地面に広げていく。

 その地図はクロード聖王国を中心とした外部の情報が記された地図であった。


「今俺達がいるのはクロード王国を北に抜けた大森林バロン。

 このどの辺りにいるかまではわからないが、少なからずずっと真っすぐ北上しているはずだからこのままいけばガラーバ街道に出るはずだ」


「それじゃあ、おいら達が目指すべき場所はその街道を沿って歩いたミラスって町だね」


「あぁ、そこまでいけば恐らく冒険者ギルドが存在するはず。

 そこで冒険者として活動していく......ってのが、現状の目標だ」


「にしても、本当に広い森だね。

 街道まであとどのくらい歩くことになりそうだろう」


「あと数日はかかるんじゃないかな。多分」


 話し合っていると焚火から香ばしいにおいが漂ってくる。

 単純に肉を直火で焼いただけなのだが、これがまた食欲を誘う。


 そして、僕達はそれぞれ肉を持ってその肉に食らいついていく。

 さらに採取した野草もバッグから取り出した紙から水を作り出してコップに注ぎ、それで流しながら口に放り込んでいく。


 すると、糸青君が僕の手に持つ紙について尋ねてきた。


「凄いな、それ。お前が作ったのか?」


「うん。といっても、紙に魔法陣を描いただけだけどね。

 すぐに発動できるように描いた魔法陣だから、魔力を流せば描いた魔法陣の効果が使えるようになるよ」


 これは国を出る前から余った時間でせこせこと作っていたものだ。

 僕の戦闘力は能力値が一般人よりも少し優れてるぐらいで、結局は一般人の枠組みからは外れない。


 そんな僕でももし戦闘となったら自衛手段が必要になってくる。

 しかし、戦闘中に魔法陣を描かせてくれるような相手なんていない。

 作ろうとしても武術がからっきしなので襲われて終わりだ。

 だから、その時のための僕が持つ唯一の戦闘手段がこの「陣魔符」である。


「今は紙に描いてあるけど紙以外のものでも描ける?」


「出来るよ。葉っぱとかにも描こうと思えば描ける。

 今はストックがあるから補充してないけど。

 とはいえ、別にこれが出来るのは僕だけじゃないよ。

 皆だって僕が教えればすぐに出来るようになる」


「「「......」」」


 その返答に皆は思わず押し黙る。

 最初こそわからなかったけど、すぐに黙った理由に察しがついた。


「あ、別に僕は傷ついてないよ?

 確かに皆がそれぞれ独自の魔法を使えることを羨ましいとは思うけど......もうそういう段階は過ぎたっていうか......とにかくそんなとこだから!」


 そう言うと三人はそれぞれ返答してくる。


「......わかった。律がそういうスタンスならもう気にしない」


「といっても、僕の魔法も役立つってわけじゃないけど」


「そうだな。俺もこの魔法について戦闘面でどう使えるかわからない。

 あまり考えたことないってのもあるけどな」


「二人のはどんなのだっけ? 康太の役職が<重壁士タンク>だってのは知ってるけど」


 そう言えば、二人の役職についてあまり知らないな。

 この際だから聞いちゃおうかな。

 すると、二人は自分の役職について説明し始めた。


「俺の役職は<魔糸術士>だ。

 自分の魔力量によって強度や太さの違う糸を作り出せる。

 そして、その糸は俺の魔力から切り離しても物体として残り続ける」


「実は今着てる外套も実は蓮君の手作りだったりするんだよ?」


「そうなの!?」


 へぇ、この外套が糸青君の......丁寧な作りがされていて手先が器用だってのがわかる。


「あ、そういえば、今更だけど外套くれたお礼を言ってなかったね。ありがとう」


「気にするな。必要だからと思って作っただけだ」


「それじゃあ、薫のはなんなんだ?」


 口元にべっとりとついた肉汁をそのままに康太が花街君に役職について尋ねた。

 それの質問に対し、花街君は近くの地面から少し芽が出た程度の雑草を両手で土ごと救い上げると答えた。


「僕の役職は<植物術士>。

 植物の成長速度を早めたり、逆に枯らすことも出来る。

 この魔法を活かして畑ではよく促成栽培をしてた」


「そういえば、植物が好きなんだっけ。

 なんだか自分の好きなものがそのまま役職になったみたいだね」


「うん。だから、この役職を見た時は皆は『不遇だ』っていうけど、僕的には実は結構嬉しかったんだ」


 花街君は目元を長い前髪で隠してるからあんまり目からの感情の読み取りは出来ないけど、喜んでるときはしっかり口元でニッコリしてくれるから案外わかりやすい性格なのかも。


「ねぇ、その目って見辛かったりしない?」


「あぁ、これはね。僕、目が女の子みたいってよく言われてたから隠してるんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、康太がお代わりの肉を食う手を止めてピキーンと何かを感じ取った。


「なるほど。男の娘か」


「違うよ!」


 違うらしい。ちなみに、僕も同じことを思ったことはない所にしておこう。


「んじゃ、蓮の方もあるの? 片目だけ隠してるけど」


「これは小さい頃に近くの山を駆け回ってたら枝で切った。

 視力的には問題ないけど痕は残ってしまって、中二病と周りが囃し立てるから隠してるだけ」


「まぁ、今もそう印象は変わらないけどね」


「嘘だろ!?」


 僕の言葉に糸青君は驚いてそのまま前髪をいじりながら「それじゃあこれからどうすれば」と悩み始めてしまった。


 そんな姿を僕達三人は笑いながら夜が更けていく。

 この時間でさらに仲良くなった証か僕は全員の名前を下で呼ぶようになった。


*****


――――クロード王国脱走から五日後


「いたぞ! が!」


「逃すな! 回り込んで挟み撃ちにしろ!」


「国の裏切り者を許すな!」


「「「「ハァハァハァハァ......」」」」


 僕達4人はクロード聖王国から「大罪人」認定を受けて追いかけられていた。

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