第3章・9
――二か月後。
『鉄道開通の儀といたしまして、ヘイロン技術開発商社よりホヅディル社長代行――そして、本日付で新しい大臣のポストに就かれますポド・フランドイル・クゼ技術大臣、御両名には鉄道開通のための最後の【
儀式の司会進行を任せられた魔法使いが、『大声の魔法』でこの広場中に聞こえるようにわたしたちを紹介した。わたしとホヅディルさんは、大勢の視線にさらされながら、立派な礼服を着こみつつ、ドワーフのような槌をもって進み出る。
司会は、さらに続ける。
『会場にお越しの皆々様に説明いたしますと、この龍釘というのは、釘の頭が円ではなく、まるで龍の首のように片側が大きく出っ張っており、そのでっぱりで鉄道に使われます大きな鉄の棒を支えるというものなのです』
「これを打ち込んで、完成だ――責任重大だぞ」
ホヅディルさんは、軽々と槌を肩にかけ、意地悪く笑った。
この大人は――そう思いながらも、別に緊張はしていなかった。
大勢の人の中で、不思議な高揚感だけがあった。
「わたし、学んだんです」
「ん?」
「変な仕事を任せられて、エルフの森へ行って、龍を倒して、工事をして――新しいことをするにはたった一歩踏み出すだけの力と最初の一歩を踏み出すだけの勇気だって」
「ふん、いいことを言うな」
「この一歩は、みんなの一歩だから――みんなの勇気で進みます」
わたしの釘の打つ場所には、ユールが待っていた。
ユールが支える釘を、最初は優しく、だんだんと強く、枕木に固定していく。
「だいぶ上手くなったな」
槌の使い方を、ユールは笑いながら褒めてくれた。
「でも、やっぱりまだまだ力が足りねえんじゃねえか?」
「じゃあ――」
わたしは、彼女の手を取る。
最後は、二人で釘を深く打ち込んだ。
『今、ここにヒトの時代が進みました! 早速、最初の機関車が森向こうの町へと走り出します。なお、この鉄道は話し合いの結果、我らが街を守った二人の名前をとらせていただきまして【ポド・ユール鉄道】と名付けられます』
「……断るべきだったよね?」
「……そうかもな」
二人は、声をそろえる。
『思ったより、恥ずかしい』
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