第2章・1

 ここ三〇日ほど、ずっと工事が続いていた。

 森までの道のり、距離にして120久里キール(一二〇キロメートルほど)に延々と盛り土を築いていく工事は、あと10久里を残すばかりとなった。凄まじい短期間で作業が進んでいるのは、はっきり言って異常だといえるだろう。

 それもこれも昼はヘイロン技術の社員たちが作業をし、夜は山のドワーフが工事をしているのだから二倍、いや三倍の速度で進んでいる。

 例えば、土を固めるための大槌(タンパー)がある。切り出された太い丸太に、取っ手を付けただけの物で、その重さで土を固める道具だ。それだけに人の力では両手で持ち上げるのが限界。だが、これがドワーフの手に掛かれば、同じくらいの――いやそれ以上の大きさの木槌きづちを軽々と振り上げ振り下ろす。

 作業効率は人間の比にならない。


 そんな日々が続き、最近はすっかり現場にも馴染んでしまった。

 荷車で盛り土用の土を運ぶ作業を手伝ったり、みんなの昼食などの準備を手伝ったりとやることは少なからずあった。専門的なことを手伝うことはできないが、監視の任務のついでとしてやれないことはなかった。

 ドワーフたちにも、かなり慣れた。

 岩を食べ、がさつで気が荒い――この国の者はそう思っているだろう。

 だが、それは異種族を知らないが故の、ただの憶測にすぎないのだと身を持って知った。

 がさつさは……まあ、否めないし、短気と言えば短気であるのだが。だとしても、それは掘削くっさくと細工を両方行う二面性ゆえだ。

 山の鉱脈を掘るという、土木作業員たる大胆さ。

 金属細工を得意とする職人たる繊細さ。

 それら両方を兼ね備える、不思議な種族だということだ。


 彼らは、いつでもハングリー精神にあふれていた。気になるものは、どこまでも気にし続け、すべてを吸収していく。魔法使いの在り方や、リヒロ達の生活まで興味は様々だ。

 また、それにちゃんと対価を払うところも律儀である。

 こんな風に、今日もドワーフ料理が準備されている。

 例の岩パンではなく(あれは、ドワーフの保存食らしいし)、ちゃんと鍋で肉が大量に入ったスープが作られている。美味しそうなスープが、ぐらぐらと良い匂いをさせている。肉もスプーンでつつくだけで、ほろほろと崩れる。

 わたしの横で、ユールもガツガツ、ズルズルとがっついている。


「しかし、このスープ美味しいですね」

「ドワーフの特製だもんなあ……なあ、太った?」

「なっ……!」


 相変わらず、ユールはこんな感じだが。

 でも、聞いてほしい。この肉体労働の現場では特にできるようなこともなく、支給される食べ物は美味しい。私はほんの少しだけ手伝いながら、ほんの少しだけ体重が増えた。

 でも、これは違う。

 筋肉が付いたのだ!

 しかし、これもまたからかわれそうだから、黙っておく。

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