第2話

 出産は想像以上に痛かった。

 もちろん、出産がとても痛いと知ってはいたけれど、その想像をはるかに超えてきた。


「ゔゔゔゔゔゔゔゔっ」


 獣のように唸った。

 夫の新たにすっぴんを見せることに抵抗が無かった私も、かわいい新には見せなくて良かったというくらい喚いたし、鬼のような形相だったと思う。


「オギャオギャオギャ・・・・・・」


 でも、その天使の声が聞こえたら、頑張ってきて本当に良かったと思った。私は部屋につくと赤ちゃんとのツーショットを新に送った。


 ピコンッ


 既読になった瞬間すぐに連絡が来た。


『ありがとう』


 ピコンッ


 嬉し泣きしている新の写真が送られてきた。新らしいなと思って思わずにやけてしまう私。赤ちゃんは未熟児のため保育器に連れて行かれることになる旨を伝えて、疲れたから寝ると連絡した。


 ◇◇


 次の日、夫にお昼に電話をした。


「頑張ったね・・・本当にありがとう」


「ちょっと、仕事中でしょ? 何泣いてんのよ」


「お昼休みだからいいんだよぉ・・・」


 電話越しから鼻水をすする音が何度も聞こえてきて、嬉しくなった。本当にこの人との子どもを生めて良かった。


「コロナのせいで私も赤ちゃんにあんまり会えないけれど、またムービー送るね」


「うん」


「あと・・・・・・」


「なになに!?」


 私の暗い声が気になったのか、新が食い気味に私に聞いてくる。


「赤ちゃん、体重2435gだって。小さいから入院長引くかも……ごめんね」


「早く会えないのは寂しいけど、健康第一だから。香里も身体大事にして」


「うん…ちょっと、疲れちゃったからベッドに帰るね」


「うん、連絡してくれてありがとうね。お大事に。バイバイ」


「バイバイ」


 妊娠中は出産のことばかり考えてきたけれど、出産の後にこんなに体力が無くなってしまうとは知らなかった。元々丈夫で大きな怪我や病気にかかったことがない私はふらふらしながら、部屋に戻りベッドに横になった。


 案の定、私の方が先に退院になり、赤ちゃんは1週間だけ遅れることになったけれど、無事退院した。


「うわぁ・・・・・・」


 迎えに来た新の声で難しい顔をする赤ちゃん。


「大きい声出しちゃだめだよ?」


「うん」


 しばらく見守っていると、良い顔をして寝る赤ちゃん。


「ちょっと、大きいね」


「すぐに丁度良くなるよ」


 買った服がダボダボだったけれど、しっかり包んであげて、車に乗せる。


「スライドドアの方が良さそうだね」


「そうね」


 友達から譲ってもらった後部座席のチャイルドシートに乗せるのに新が悪戦苦闘してなんとか乗せると、泣き出す赤ちゃん。


「あぁ、ごめんねぇ」


 ぐずり出して、いつ大泣きするかわからない状態だったけれど、


「私が見るから、大丈夫」


 と言って、私も後部座席に乗り込むと、新も急いで運転席へと向かう。


「なんか、寂しいなぁ」


 私の特等席だった空席の助手席を見て、新が呟く。


「新しい家族が増えたでしょ」


「それもそうだ。じゃあ、香里、赤ちゃん・・・・・・我が家へ帰ろう」


「首が座っていないから安全第一でね」


「もち」


 車の中は幸せにいっぱいだった。

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