第58話 俺達の旅はまだ始まったばかりだ! にっ

 翌朝、俺達は魔界庁の前で魔界庁職員たちのお見送りを受けていた。


「本当にもう行ってしまうのかい? もう少しここに滞在してくれてもいいのだぞ」

「ハーデス様。心遣いありがとうございます。でも、仕事をしなくていいんですか? そもそもその遅れを取り戻す為に戦ったわけですから」

「うむ。そう言われると痛いな。だが、また来たい時はいつでも来てくれ。君はこの魔界を救ってくれた英雄だ。遠慮はいらない」

「はい。また機会があれば」


 ここは中々居心地がいいが、俺の目的は神を見つけて連れ戻す事。


 あれだけの決意表明をしたのだ。ここで自堕落な生活をすれば、いつ神に天罰を受けるか分からない。


「さて、じゃあ皆そろそろ行こうか」

「そうだな。はやく神を見つけてリベンジだ!」

「ふっふっふっ。何処までもお供します、幸太さん」

「魔界にいる可愛い天使達に別れを告げるのは辛いが、また新たな子達と出会う為に新たな旅に出よう」


 皆が次への旅路に前向きな中、ベルだけが何か不満げである。


「どうしたんです? ベル様」

「……おい。まさか、お主は我に今から歩けと言うのではないな? 乗り物の準備は?」

「はっはっはっ。ベル様無茶を言わないでください。あのポン……ごほん! 天馬鳳凰号は天界に置いてきたんですよ」


 そう。俺はあのがらくたを天界で厄介払いして来たのだ。


 これだけ人数が増えたのだ。もうそろそろ皆には文字通り独り立ちしてもらわなくては。

 

 そんな作戦を成功させた俺の服の袖をファミが軽く引っ張った。


「ん、どうしたのファミ?」

「私、そんな事もあろうかとちゃんと手続きしときました」

「え?」


 ファミは何かの呪文を唱えると黒い渦を作り出し、その中に手を突っ込んだ。


 すると、その中からあの忌まわしいポンコツ号が姿を現した。


「おおっ! これは我が天馬鳳凰号ではないか! 久しぶりじゃの!」


 ベルは目を輝かせて、早速それに乗り込んだ。逆に光を無くした俺の目は、ファミを見つめた。ファミは胸を張り、鼻高々にドヤ顔をしている。


「おっと、お礼はいりません。当然のことですから」

「流石は私の優秀な部下だ。私も鼻が高いよ」


 ハーデス様はファミの頭を撫でると、ファミはさらにドヤ顔をした。


「いや、本当にありがとう。いちいちこんな事をしてくれて、涙が出そうだよ」


 振り向くと既に全員がポンコツ号に乗り込んでいた。俺は仕方なく、そのリヤカーを引くための取っ手を持った。


「結局はこうなるのか。……まあ、俺らしいと言えばそれまでか」


 そう軽くため息を吐いた俺は、後ろを振り返る。


「では、行きますよ。いつも通り点呼、一!」

「二じゃ!」

「三です!」

「四だぜ!」

「五だよ!」

「よし! じゃあ皆さんお世話になりました。またいつか何処かで!」


 そう俺は魔界の皆に手を振った。皆も別れを惜しむ様に手を振る。


 そうして、俺は次の旅に向けて第一歩を前に踏み出した。その時、ポトリと俺の肩に鳥の糞が落ちる。


「はあ、せっかく人がやる気を出しているのに……まったく俺は不幸……」


 俺は言葉の途中で首を横に振る。


「相変わらず、お主は不幸じゃの」


 ベルは俺を見てそう口にする。


 今までの俺なら、それに同意するだろう。


 でも、もうその言葉で全てを終わらせるのは止めよう。


 何故なら――


 俺は初めに旅に出る時に思った言葉を、その時とはまるで違う心境で口にする。


「不幸? 俺の、俺達の旅はまだ始まったばかりだ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女神様。どうか俺に幸運を・・・ 琥珀ミライ @momo31

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ