第53話 運ゲー

「さて、わしと対決という事じゃが、どうしたもんかの……」


 神は顎に手を添えて、何かを考えるそぶりを見せる。


「何だよ、何か問題でもあるのか?」


 俺の問いに神は少し小馬鹿にした表情を見せ、軽く鼻から息を吐いた。


「いや、お主といい勝負になる競技は何か考えてたんじゃ」

「いい勝負?」

「うむ。ただの人間であるお主と神であるわし。普通の競技なら勝負にもならん。お主でもある程度抵抗できるものを考えているのじゃが……難しいの」


 随分と舐められたものだが、俺はその挑発にそれ程怒りを覚えなかった。いや、むしろ納得さえしていた。


 神の言う通り、普通の人間である俺が強大な存在である神に対抗できるものなど、探す事は誰であっても困難であろう。


「なっ、何おぉぉ! 調子に乗るなよ神! 我ら悪魔連合に属する幸太君を舐めるな! 貴様のその高い鼻っ柱を折って、泣き顔に変えてやる!」


 何故か代わりにハーデス様がその挑発に乗せられていた。


 いつの間にか俺は悪魔連合に属されていたが、突っ込むとややこしくなりそうなので、あえて無視することにした。


 そんな中、どんな競技で勝負を決するかを考えていた神が、急に眼を見開きポンと自分の拳でもう片方の掌を叩いた。


「そうじゃ、そうじゃ。あれにしよう」


 何かにめどが付いたらしい神は、手を伸ばすとその先に出来た黒い渦の中に突っ込んだ。


 そして、その中を探るようにぐるぐると腕を回すと、何かを捕まえたらしくそのまま手をその渦から引き抜く。


 神の手には何かしらの大きな二つ折りの板があった。


 神はご機嫌に鼻歌を歌いながら、部屋にある大きなテーブルの上にその板を置き、折りたたまれたそれを開く。


「なんだそれは?」


 ハーデス様がいきなり出された板を見て首を傾げる。


「私も始めて見ますわ」


 ヴィディも同様に首を傾げた。


 その他の者もその板の正体が分からないみたいだ――ベルを除いて。


 そして当の俺は、ベルと同様その板の存在を知っていた。


 その板には多くの何かしら書かれたマス目があり、その中心には一から十の数字が掛れた大きなルーレットがあった。


「これはな――」

「人生ゲームか」

「ふん。幸太は知っとったか。せっかくわしがこの無知共に知恵を与えてやろうとしたのに」


 周りの皆が不思議そうにそれを眺める。


「おい、神。これはどうやって戦うんだ?」


 アテナの問いに神が自慢げに説明を始めた。


「これはな、今ここ魔界でも天界でも流行っておる『天国? 地獄? あなたの道はどっちかな? 第二人生ゲーム』と言って、この自分を模した模型をルーレットの数字だけ進め、そこに書かれてある内容で良い事があったり、悪い事があったりする中で、最終的に一番多くのゴッドを持ってゴールした者が勝者という単純なゲームじゃ」


「なんだ? 要は一番金を持っていればいいのか?」

「まっ、ありていに言えばそうじゃ」

「なんだ、簡単じゃねーか! よし、これでもう一度リベンジだ!」

「アテナ。さっきまで泣いてたのに、もう大丈夫なのか?」

「ん? 何のことだ?」


 この馬鹿メンタルは長所と言うべきか短所と言うべきか。


「ああ、それとわしはルーレットを回す時に自分の力は使わんぞ。公平性を保つためにな。ハーデスよお主ならわしが力を使ったかどうか分かるじゃろ? もし使ったら申告せい。わしは失格負けとしよう」

「分かった。お前が何かしらの力を使った瞬間に、即申告してやる。覚悟しとけ!」


 話が進んでいく中、俺は鼻で笑った。


「ふん。何が公平性だよ」

「ん? なんじゃ、お主はこれに不満でもあるのか? わしはお主の様な存在でも実力差なく勝てるものを選んでやったんじゃがな」

「ああ、そうだな。つまりはこの勝負、運ゲーてことじゃないか」


 そうだ、相手はよりによって俺が一番不得意な運での勝負を挑んできた。


「そうか、確かお主はよく自分の不運を嘆いたの? しかし、もしお主が万が一にわしから勝利を得ようとしたら、もうその運を手繰り寄せるしかないんじゃないか?」


 確かに神の言う通りだ。


 もし神に勝とうとするなら、力を使わないと言ってくれたこのゲームで、運で上回るしか俺の道は残ってない。


 俺に勝機というものを作ってくれたと考えれば、神の提案はある意味慈悲と言ってもいいくらいだ。


 今まで散々自分で罵ってきた己の運に、自分の運命を託すとは皮肉なものだ。


 そんな現状に俺は笑いながら決心した。


「分かった。その勝負受けよう」

「そうか。なら早速始めるとしよう」

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