第20話 情報提供者 坂もっちゃん

「うむ。了解したでござる」


 何故か目の前にオタク君が立っている。


「え? オタク君どうしたの?」

「どうしたって、情報を提供しに来たでござる」

「え?」

「だから、拙者が情報提供者でござるよ」

「ええええええええええええええっ!」

「戦いの途中にも言ってたでござろう。我々の得意分野は情報収取だと」


 この人優秀すぎだろ! ピンチの時に現れて、戦って、そのうえ情報提供って、何でもありかよ! 俺のヒーロー過ぎるだろ! 


 っていうか、この人に最初から頼ってたら、こんなしんどい目に合わなくてもよかったじゃん!


 そんな今までの無駄に辛かった努力に思いを巡らせる中、オタク君は俺が欲しかった情報を話し出した。


「ふむ。拙者の情報網での証言では、神は二週間前にこのイザデールに来られたみたいでござる」

「二週間前? じゃあ、まだこの街にいるのか!」


 俺の質問にオタク君は残念そうに首を横に振った。


「いや、数日滞在した後『ここはもう飽きた。次は祭りじゃ! 戦の祭りに行くぞ!』と言い残し、この街を後にしたらしいでござる」

「祭り? 神は、戦の祭りというものがある所に行ったのか?」


「うむ。そして、その戦の祭りとは……戦の街『ラテパル』で開かれていると聞くでござるよ」

「戦の祭り……戦の街『ラテパル』……そこが俺達の次の目的地か……」


 すると、オタク君は戦いの時に見せた鋭い眼光を見せ、忠告をしてきた。


 というか、何でこの人はこんな眼光を出せるのだろうか?


「気を付けるでござるよ。あそこは熱き人が集まり、様々な戦いを繰り広げていると聞いているでござる。気を抜けば何が起こるか……拙者にも予測が付かないでござるよ」

「ああ、分かった。忠告ありがとう。っていうかここ本当に天界なの? 危険な事ばっかじゃん」


 オタク君は戦友を見送るように、優しい顔つきに変わり、俺に手を差し伸べてきた。


「しかし、貴殿ならそんな苦難もきっと乗り越えてしまうのでござる。何故なら、貴殿は我々が尊敬した……アルティメット・ラブマスターなのだから……」


 俺は今までピンチの時に助けてもらい、勇気を分け与えてくれたオタク君の手を強く、熱く握りしめた。


「ありがとう。オタク君。結局、最後までその名前止めてくれなかったね。ほんと、頼むから人の話聞いてよ」

「はっはっはっ。それを言うなら貴殿もでござるよ。拙者の名前はオタク君ではないでござるよ」


 それもそうだ。オタク君は俺が勝手につけたあだ名であって、本名じゃない。


「それは失敬。じゃあ、最後に君の名前を教えてくれないかな?」

「勿論でござる。拙者、皆からは『坂もっちゃん』と呼ばれているでござるよ」

「坂もっちゃんか……親しみやすくていいじゃないか。それで本名は?」


 坂もっちゃんという親近感の湧くあだ名を教えてもらい、俺はここに来て初めて友達が出来たと思った。


「坂本龍馬でござる」

「えっ……」

「だから、本名は坂本龍馬でござるよ」


「へっ、へー。いっ、良い名前だね。俺のいた地上ではそんな名前の有名な人がいたよ。何か薩長同盟とか大政奉還とか関係したとか……へっー、凄い人と同姓同名かー。良い名前貰ったねー」


「うむ。だからその坂本龍馬でござるよ。凄いとか言われると照れるでござる」

「へー。同一人物なんだ。へー…………っええええええええええ! どっ、同一人物うううううううううう! マジで?」


「そんなに驚くことでござるか?」

「驚くよ! っていうか何で? 全然イメージと違うじゃん。本とかテレビじゃ語尾に『ぜよ!』とかついてたじゃん!」


「はっはっはっ。恥ずかしい事を思い出させないでござるよ。あの時は若かったでござる。『ぜよ!』とか中二病全開でだったでござるよ。拙者の黒歴史でござるよ」


 坂もっちゃんは気恥ずかしそうに鼻下を指で擦った。


「いやいやいや! 逆! 逆だから! 今、中二に退化してるから! 今、黒歴史に突入しちゃってますから! というか、何で? 何で今はこんなのになっちゃったの!?」


 俺の疑問に、坂もっちゃんは真面目な表情になり、過去を振り返り始めた。


「拙者、己の信念を実現させる為に、最初に刀を手にしたでござるよ。しかし、世界を知れば刀より銃の方が威力があることを知り、次に銃を手にしたでござる。だが、己の信念を実現させるためには武力より知力と知ったでござる。だから、拙者は銃を捨て本を手にしたでござるよ」


 坂もっちゃんはより一層眼光を光らせ、力強く己の転換期を叫んだ。


「そして! 時代は軽量化へと進み! 拙者は分厚い本を捨て、この薄い本を手にしたでござるよ‼」


 そう言いながら坂もっちゃんは、モザイクを掛けないといけない本を取り出した。


「いやいやいや! 違うから! 最後だけ違う方に飛んでっちゃっているから! 北極から南極に飛んでっちゃっているからああああああああああ‼」


「こうして、拙者の信念は達せられたのでござる」


 ドヤ顔で言い放った坂もっちゃんに、俺は純粋な疑問を投げつけた。


「いや。あなたの信念ってそもそも何だったの?」

「…………可愛い娘を愛でる?」


「いや、そんな理由で最初何で刀を手にしたの? 何で銃を手にしたの? 薩長同盟とか大政奉還とかいらないじゃん‼」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る