第14話 俺に近づくな!

 俺は大きい袋を担いで、ヴィディーテさんの店の前に来ていた。


 そこには、どうやって知ったか知らないが、ヴィディーテさんが既にお出迎えをしていてくれた。


「お帰りなさいませ」

「あ、どうも」

「それで、どうでしたか? 何か進展でも」

「はい。確信はないんですけど、小さな光は見つけました。あとはやるだけの事はやってみます」


 俺は持っていた袋を地面に置き、店に入ろうとする。


「これ、何ですか?」


 ヴィディーテさんがその袋に近づこうとした。


「近寄るな!」


 俺の大きな声に、ヴィディーテさんがビクッとなって動きを止める。


「それ以上近寄ってはダメだ。特に、あなたの様に皆に愛されている美女は……」

「びっ、美女……。はい。分かりました! 幸太さんの言う通りにします」


 そう言うと、ヴィディーテさんは何故か嬉しそうに、店の中に走って行った。


「よし、準備をするか」


 俺は身支度をする為に、自分の部屋に向かった。すると途中で、ベルが欠伸をしながら部屋から出て来た。


 というか、もう夕方だぞ。今まで寝ていたのか……。


「ん? もう帰って来たのか。早いな」


 早いって……。お前はただ寝ていただけだからだろ。俺は一日中動き回っていたんだよ。


「で、これからどうするのじゃ?」

「ベル様も言ったでしょ?」

「ん? 何か言ったかの?」

「これからするんですよ。……修行を‼」

「修行?」


「ええ。これから決闘の日まで、俺は近所にある借りた倉庫の中に籠り、そこで修行をします」

「ほう。まあ、頑張るがよい」

「はい。あと、この修業は辛く危険です。心配だからと言って、様子を見に来るのは止めてください」

「うむ。元々見に行くつもりはない。ゲームの方が大事じゃ」


「…………」

「…………」


「それでは、決闘当日に会いましょう」

「うむ。分かった」


 俺はこの決闘を仕組んだ張本人の激励? を胸に修行すべく宿舎を後にした。



 それから二日後、決闘当日。


 俺は少しやつれた顔で、修行をしていた倉庫から出て来た。


「ふっ、やっとこの日が来た。もう何日もこの倉庫にいた気がする」


 俺はコートを身にまとい、一つのバックを持って決闘場に向かった。


 決闘場は、何処からか噂を聞いたのか、既に多くの見物客が集まっていた。勿論そこにはベルもヴィディーテさんもいる。


「あっ、幸太さーん!」


 ヴィディーテさんが俺に向かって、笑顔で手を振ってくれた。 その声で、ベルもこちらに気が付く。


「む、遅かったな。待ちくたびれたぞ」


 そう言い、二人は俺の方に近づこうとした。


「近づくな‼」


 俺の叫びで、二人は歩みを止めた。


「近づかないでくれ……。今の俺は修行のせいで、とても危険な状態なんだ。近づくもの全てを傷つけてしまう……」


 そんな俺の忠告に、ベルは目を凝らし俺を見てくる。


「……なるほど」


 何かを悟ったように、ベルが頷く。そんなベルに、ヴィディーテさんが詰め寄る。


「どういうことなのベル? 私にも教えて!」


 ベルは、いつもは見せない真面目な顔になり、何かを説明しだす。


「今の奴は危険じゃ。修行の成果で、禍々しいオーラを放っておる。奴の言う通り、近づくもの全てを傷つけるじゃろう……」

「そっ、そんな……。いったいどれだけ過酷な修行をすればこんな短時間で。私の為に……ああ、これが愛の力……」


「今は奴を信じて、我々は見守るとしよう」

「……はい。分かりました。新妻はただ信じて待つのみ……」

「……? お主さっきから何を言っておる?」


 俺から少し離れた所で、二人は色々と話しているが、今の俺はそんな事を気にしている余裕はなかった。


 そう。何故なら、奴が来たからである。


「愛の狩人 アスモ! 悪のストーカーを退治すべく、ここに参上!」


 向こうの人だかりの中から、あの独特な歩き方をしてアスモが出て来た。


 あの歩き方、見れば見る程うざく思えてくる。


「フフフッ。よくぞ逃げずに姿を現したな。ストーカーはストーカーらしく、陰でこそこそしていればいいものを……。今更後悔しても遅いぞ!」

「何度も言うが、ストーカーはお前だろ! それに、お前こそ後悔しても――」


「おおっ! 我が愛しのヴィディーテ! 吾輩の事を心配して来てくれたのか⁉ 大丈夫だ! そこで吾輩を見ていてくれ!」

「って、一回くらいは人の話をちゃんと聞けよ!」

「さあ、早速勝負を始めよう!」


 ……もうこいつには何も期待しない。

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