【超短編】実の兄妹《きょうだい》のはずが、血が繋がっていなかった 〜だからと言って恋に落ちたりしないよ。ぜぜぜ絶対に……

波瀾 紡

一話完結短篇

 子供の頃は可愛かった妹が、思春期になってやたらと憎たらしくなるってよく聞く話だ。


 今俺は高校三年。妹は高校二年。

 俺の妹、唯香ゆいかも同じように……なってるんだか、なってないんだか。


「お兄ちゃん! ほら、そんなだらしないカッコでウロウロしないの!」


「いいだろ、家ん中なんだから」


「だーめ! だってウチには年頃の可愛い女の子が同居してるんだよ?」


「誰だよそれ?」


「はぁ? 唯香って名前の可愛い女の子だよ!」


「お前、実の妹じゃん」


「実の妹は可愛い女の子じゃないとでも?」


 唯香がコテンと小首を傾げたら、ショートカットの髪がふわりと揺れた。

 正直言って妹の容姿はかなり可愛い。だけど妹だ。女の子として見るはずがない。


「可愛いかもしれんけど、妹だ。女の子じゃない」


「は? 妹なら女の子でしょ。男の子なら弟だし」


「だから唯香。そういうこっちゃない。いくら可愛くても妹は妹。女として見れんだろ」


「じゃあもしも実の妹じゃなかったら、女の子として見るってこと?」


「いや、ずっと妹として過ごしてきたんだ。もしも実の妹じゃなかったとしても、今さら女の子として見れるわけがない」


「ふぅーん……ムカつく」


「は? なんだって?」


「なんでもないっ!」


 なに言っとんだコイツ。


 確かに容姿は可愛い。それに友達から聞く妹の憎たらしさに比べたら唯香は俺を慕ってくれてて、時には子犬のように甘えてくることもある。


 だから性格的にも可愛いと思える。

 だけどやっぱ俺たちは兄妹きょうだいだ。女の子としてなんか見れない。


 風呂上がりの薄着を見たって、洗濯物のブラやパンツを見たって、それが唯香のモノならばドキドキすらしない。



 そういうもんだ。


***


「重大はっぴょお〜っ!」


 ある日曜日の夜。

 両親と俺と唯香、四人で晩飯を食い終わった後、突然親父が素っ頓狂な声を上げた。


「なになに? いよいよ家族で宇宙旅行に参加する?」


 唯香が身を乗り出した。


 我が家は前○社長の家族じゃないんだから、それはないだろ。なに言っとんだ唯香は。


「それは違うぞ唯香」


「なーんだ残念!」


「ヒロシ、唯香。実はお前たちは実の兄妹ではない」


「はぁっ?」


 ヒロシは俺の名だ。つまり俺と唯香は実の兄妹ではないと?

 ある意味宇宙旅行よりも衝撃的かもしれん。


「マジ……?」


 唯香も呆然としてる。


「ああそうだよ。ヒロシが2歳、唯香が1歳の時にパパとママは再婚したんだ。だからお前らは血が繋がってない」


「よっしゃ!」


 は? 今唯香はなんて言った?


「あのさ親父。なんでまた突然そんなことを?」


「昨日の晩に、テレビで観たんだ。ウチと同じような家庭で、両親が子供にホントのことをちゃんと話してるって話をな。隠し事のない家庭がそのお父さんのポリシーで、家族めっちゃ仲がいいんだよ」



 なるほど。それに影響されたってわけね。

 軽くてちゃらんぽらんな親父らしいよ。


 お袋もそんな親父を愛おしそうな目で見てるし。

 バカ夫婦ここにありだ。


 それにしても……唯香は実の妹じゃなかったのか。この前の冗談がホントになっちまった。


 まあだからと言って、なにも変わらないんだけどな、あはは。


***


「ねえお兄ちゃん。どう?」


 家族四人での話が終わって自分の部屋に入ったら、なぜか唯香がついてきた。


「どうってなにが?」


義妹ぎまいだよ義妹」


「だからなんだよ」


「オー・ギマイ・ゴォッド! って驚いた?」


「そんなつまらんことを言いに来たのか?」


「違う。そうじゃなくて、急に私が可愛い女の子に見えてきた?」


 明るく笑う唯香。


 なぜかその笑顔が、ホントにいつもより可愛く見えてドキっとした。慌てて目をそらすと、タンクトップの胸の膨らみが目に入った。やべ。


「あ、いや。この前も言ったけど、今さらそれはない」


「ふぅーん。なんか顔が赤いよ?」


「いや、そそそんなことはないさ。ちょっと部屋が暑いのかな?」


「怪しい……」


「怪しくない。唯香だって同じだろ? 急に血が繋がってないなんて言われても実感ないよな?」


「ん……実はね。私、前から知ってたんだ」


「え? なんで?」


「中学の時かな。戸籍って言うの? 封筒に入れてあったのを偶然見たの。それでわかったんだ」


 これまた衝撃的事実。

 知らぬは俺ばかりなり……だったわけか。


「でもさっき親父がカミングアウトした時、お前『マジ?』とか驚いてたじゃん」


「だって急にこんなことを明らかにするなんて思ってなかったからね」


「そっか」


「うん、そういうことだよヒロシ!」


「あ、いや……義妹だって妹なんだから、急に名前呼びすんな。お兄ちゃんでいいだろ」


「あはは、顔赤いよお兄ちゃん。やっぱ私を女の子だって意識した?」


「はあ? ありえねー お前だって、別に俺を男だって意識なんかしないだろ」


「うーん……どうでしょうねぇ……」


 小悪魔のような可愛さで微笑む唯香。

 正直、異性を感じそうになる。


「いや、お前まさか……」


「ふふふ、冗談だよっ。私がお兄ちゃんを男として意識するはずないでしょ。それともお兄ちゃんは、意識してほしいのかな?」


「そ、そんなわけないだろ!」


「焦ったお兄ちゃん可愛い」


「こ、こら。兄を可愛いなんて言うな。俺は絶対にお前を女として見ないからな」


「ふぅーん……ふふふ。まあいいけどねぇ〜」


 そんな可愛い顔で笑ったって。


 俺は唯香を女の子として……意識なんか……絶対にしない……からなっ!


 うん、絶対に。



= 完 =





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落ちとるやん

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