第一話
第2話 食事は官能的なのか no.1
とまぁ、こんな感じで俺達の奇妙な関係はスタートしたわけだ。
ラッキーと言えばめちゃくちゃラッキーなのだろうが、正直ちょっと困っている。
放課後、屋上へと向かう階段。足取りは重い。
今日は一体どんなアプローチを仕掛けてくるのだろうか。
楽しみ2割、不安8割といったところだ。
「よぉ、遅かったじゃん」
屋上の扉を開くと、茜さんは笑顔で手を振ってきた。
周りに誰もいないことを確認した後、俺も手を振り返しながら近づく。
「なんだよ、キョロキョロして。教室でもそーだよな、アンタは」
「あまり人目のつくところで絡むなって言っただろ」
「なんで?」
「茜さんと仲が良いって知られると、色々と面倒な事になりかねないだろ」
「──っ、なるほど……」
陰キャと陽キャが実は仲良かったなんて知られたら、茜さんにだって迷惑が掛かるかもしれない。これはお互いにとって適切な配慮だともいえる。
何度も言うが、彼女とは住む世界が違うのだ。できることなら、関わらない方がいい。
……なんて、口に出して言えないのは下心があるせいか。
「それで、今日はどうしたって言うの」
彼女の横に座り問いかける。
すると、カバンの中から小包を取り出し俺に差し出してきた。
これは、もしかして。
「あ、ああ、見てくれよ! 一生懸命作ったんだ」
「手作り、弁当か……!」
手作り弁当とは、何か。
定義としては言葉の通り、コンビニ等で売っている既製品ではなく、手作りされた弁当の事を言う。
だが、俺達青春真っただ中の者、更には異性から受け取る場合は非常に大事な意味を持っている。
まだ、料理もままならぬ年齢の女性が早起きをし、更には対象の男の子の為に……もっと言えば、胃袋を掴み恋に発展させる為に制作する特級呪物。
渡された時点でラブコメは成立し、食べた段階で恋は成就すると言っても過言ではないだろう。
なお、上位互換に愛妻弁当という物が存在するが、その説明は置いておこう。
「さぁ、どうした。受け取らないのか?」
「やるな、茜さん、まさか清純派で攻めてくるとは思わなかったよ」
「私にだってこれくらいはできるさ」
「……しかし、受け取れないな。なぜなら時刻は現在17時半、今ご飯を食べるとお腹いっぱいになって夕飯が食べられなくなってしまう」
「そう言うと思ったさ。だが、これを見ても同じセリフが吐けるかな?」
「──ッ!?!?!? そ、れは……ッ!!」
突き付けられた手の平には、無数の絆創膏が貼ってあった。
あまりの衝撃に、俺はたじろいでしまう。
「不器用系、清純派、ギャル……だと!?」
「ふふふ、実は私、料理なんか一切したことないけど今日の日の為に練習し、更には5時に起きて、この、小さな箱に料理を詰め込んできたのだ!!」
「ぅ、うわぁぁぁああああああッ!!」
なんということだ。これは強いぞ。
料理の得意な彼女が自慢気に完成度の高い弁当を持ってくるのもいいが、不器用な女の子が普段しない料理を勉強し一生懸命作る姿もまた一興。
というより、俺はそっちの方が好みだ。
しかも、晩御飯を言い訳に弁当を拒絶したら最低な男になってしまう。
逃げ道は塞がれた。
伊達にいろんな男を魅了してきたわけではない、ということか……茜 夏希、恐ろしい女。
「くッ、仕方ない……お母さんには申し訳ないが、受け取ろう」
第一ラウンドは彼女の勝利と認めるしかないだろう。
ごめん、父さん、母さん……俺は、食うよ。
だが、まだ勝負は始まったばかり。
茜さんの作戦は理解した。
好意、つまり純粋な女の子らしさで攻め興奮させるつもりなのだろう。
初手から寝技(比喩)を使ってくるとは思わなかったが、もう大丈夫だ。
「ほら、早くあけて、食べてよ!」
「じゃ、じゃあ……いただきます」
生唾を飲み込み、爆弾解除班の気持ちで弁当の蓋を開いた。ふっ、やはりな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます