第5話:願ってもない

 アラームが鳴っている。朝だ。まだ昨日の失敗を少し引きずっている。なんでこうなることを予期できなかったのか自分が恨めしい。


 朝食を摂りにリビングに入ると、母が既にテレビを見ていた。


 テレビから童貞税を撤廃せよとのデモが決行されているとの情報が入ってきた。そりゃそうだ。理不尽すぎるからな。でも....


 明らかにデモの人数が少ないんだよなぁ。案外童貞をこの機会に捨てようと思っている人が多いのか、報じられて顔がばれるのが嫌なのか。顔は隠せばいいので考えられるのは前者か。


 そんなことが報じられているのを横目に俺は会社に向かった。


 会社に着くと、中田が他の同僚に向かってプレゼンをしていた。心なしか、いつもより生き生きしているように思える。


「あの」


 中田の方を見ていたら受付の田村さんから声を掛けられた。そういえば童貞税が導入された初日もこんな感じで声を掛けられたよな。あの時は何か変な感じだったけど。


「どうしました?」

「あの、風俗に行ったって本当ですか?」

「はい?!」


 田村さんの口から出るはずのない言葉を聞き俺は固まってしまった。


「行ったけど、俺は金が足りなくて何もせずに帰ったよ」

「本当ですか?!」

「本当だけど、どうして?」


 なんでそんなことを俺に聞いてくるんだ?本当に分からない。


「あの...じ実は、岩田さんのことが以前から気になってまして」


 気になる?気になるって...好きと同義の気になるだよな?俺のどこに好きになる要素があったんだ?


「お、俺を?どこに好きになる要素なんてあるんですか?」

「いや、日ごろの心遣いとか優しいところとか」

「あ、ありがとう、でも俺はそんなにいい人間じゃないよ」

「岩田さんは自分を過小評価し過ぎです。」

「俺でいいの?」

「はい」


急に告白されたので、びっくりしたが願ってもない彼女ができた。


「車内で噂になってると思うけど俺童貞だよ」

「?それが何か問題あるんですか?」


その言葉だけで今までの俺が救われた気がした。捨てる神あれば拾う神あり、俺に断る選択肢は毛頭ない。


「あ!この前、変だったのってコレを言いたかったの?」

「デリカシーがないところは直した方がいいですね!

「はい」


こうして俺と田村さんは付き合うことになった。







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