第9話 客人は男の子 2

 祐太朗は、どこに行ったのか?

 とにかく探し出す。そして、君はセクハラという、してはならぬ行為をしたのだと、怒ってやろう。美人女子高生のこの私が。

 1階から3階までの、全ての客室を捜索するも、いない。

 捜索途中、朝日とるいに目撃情報を訊くも収穫なし。

 お風呂、露天風呂にも顔を出す。

 脱衣所には、ずぶ濡れの2年生女子、ネネがいた。

 ネネの役職は、温泉管理人――仕事内容としては、清掃、温度管理、湯質の調整などで、別にずぶ濡れになる必要はないのだが・・・。

 刹那、視線が交錯する。

「また、飛び込んだ?」

「ダイブ、気持ちいい」

 まあ、恍惚とした顔をしているなぁ。

 ネネは、学生服でお風呂に飛び込む、奇妙奇天烈きみょうきてれつな癖がある。

 てか、女子としてどうなの?

 なにせ、ずぶ濡れ、下着が透けまくってる。今日は、ピンクのブラかい――。

 私の心配をよそに、ネネは、どこ吹く風で、まったく気にする様子はなく、

「気持ちいい」

 頬に手をおっつけて、体をくねらせている。

 これ以上、同じ空間にいると、変人が伝染うつりそうだ。さっさと、捜索に戻ろうか、おっと、一応訊くか。

「祐太朗、見なかった?」

 ネネはくねくねしながら、

「見た。トイレ。パハップス」

 パハップス?なんだ、トイレか。

 礼を言って、帰ろうと脱衣所の戸に手を掛けると、

「あっ、男子トイレ、パハップス」

 ネネが心配そうに言った。

「うん、それはわかってるから、安心して」

 意味不明なネネの心配は、放置。

 捜索再開だ。

 

 

 祐太朗は、自分が宿泊する、2階の客室トイレにいた。

 私が、あっちこっち、捜索している間に、フロントで自分の号室を訊いたのだろうか。まあ、それはさて置き。

 祐太朗は現在、用足し真っ最中。

「なっ、なに入ってきてんだよー」

 この状態なら捕獲は、簡単だ。しかし、想像する。

 もしも、祐太朗が攻撃を仕掛けてきたらどうするのか。

 今は便器に向けらている、恐らく小さな如雨露じょうろが、こちらを向き、発射されるかもしれない。

 そう、下手を打てば、私はネネみたいにずぶ濡れになるやもしれない――やはり待とう。

 てか、祐太朗は子供だが男ではないか。

 もしこんな場面をけん支配人にでも、目撃されたらまずいなぁ――。

 結論が出たところで、ワイリーコヨーテとロードランナーも驚くスピードでトイレから失礼した。

 それから、待つこと、わずか数10秒後、祐太朗は手をフリフリさせながらトイレから出てきた。

 どうやら逃げる気はないらしく、踏込ふみこみで靴を脱ぎ捨てると、居間へと入る。

 私も後を追って入室する。

 祐太朗は、私の顔を振り返り見ると、

「おいっ、ペチャ。夢の中なのに、何でオシッコが出るんだよ」

 ペチャ?また、このガキは。もしお客様でなかっら・・・。ん?夢か――。

「う〜ん、それは、ほらっ、現実に近い夢?だからかな」

 ちょっと、無理があったかな。

「ふ〜ん」

 意外に納得した表情だ。

「スッキリしたら、腹減った。ペチャ、飯くれ、飯」

 イラッ!このガキ・・・。

 恐らく、私の顔――右側頭筋辺りには、縦にスジが深く刻まれているだろう。

「あのね、私のことは、夕日って、呼んでくれないかなぁ」

 優しく丁寧に言ってみる。

 祐太朗は、首を傾げて、しばし思考すると、面倒くさそうに、

「けっ!わかったよ、夕日。それより、飯くれよ。メシっ!!」

 呼び捨てかいっ!

 てか、――お前は、亭主関白な旦那かっ!!





















 

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