第5話

「買収!?でも、怪盗が買収しようとしたとして、どうしたら買収できるんだろう?」

「うーん……」


 大井とすみれが頭を抱えていると、部長が手を叩いた。


「顧問に聞いてみよう」


 顧問の先生は、社会の先生だった。

 当然、経済も担当している。


「なるほど。そういうことだったら、少しアドバイスをしてあげよう」


 相談を受けた先生は、早速黒板に説明を書きだしながら、質問をしてきた。


「会社で一番偉い人は誰だと思う?」

「社長だと思います」

「その通りだね。では、その会社はだれが所有していると思う?」

「……社長が一番偉いんだから、社長?」

「残念。違うんだよ」


 先生は黒板に書いた簡単な絵を使って、3人に向き合うと話を始めた。


「会社の所有権は、会社が発行する株式を持っている人が所有しているんだ。株式を持っている人を『株主』と言うんだよ」

「株主……聞いたことありますね。それならば、その株主が社長をしないんですか?」

「いい質問だね」


 先生はにやりと笑った。


「会社経営には専門的な知識もいるので、株主は信頼できる経営者に会社経営を委任するんだ。委任された人たちを、取締役というんだ」

「おお、なんか聞いたことある」


 大井がなれなれしく答える。

 先生も慣れたもんで、さらになれなれしく話を続ける。


「でしょ。その取締役が集まって、実際に会社を運営する社長を決めるんだよ」

「なるほど。株主が会社を所有していて、委任された取締役が社長を決めて、社長が会社を運営する……社長って案外えらくないじゃん?」


 社長を決める取締役は株主によって決められているのだから、社長も取締役も株主の一存で辞めさせられることもあるというわけだ。


「まあね。とはいえ、会社の運営の中では一番偉いさ。それにね、株主が会社運営もできる実力がある場合は、自らが取締役、さらには社長になるケースも多いよ」


 すみれは心配そうに先生に質問をした。


「それじゃあ、株主から株式を奪っちゃえば、会社全体が買収されちゃうってことですか?」


 先生は首を縦に振った。


「その通りだ」

「それって、簡単に奪うことができちゃうんですか?」

「取締役会の承認や株式を持っている株主の合意がないと、無理やり奪うことはできないよ」


 それを聞いて、すみれはだまって考え込んだ。


「品川?……」

「すみれ?……」


 大井と部長がそれぞれ心配する。


 やがて、すみれは二人を見ると、泣き出しそうな顔で答えた。


「おじいちゃん、高齢だから、取締役の叔父叔母と一緒に後継者を探しているって言ってたの。もしオゾンカみたいな盗賊に後継者しますよって言い寄って騙されてしまったら……」


 それを聞いた部長と大井は、はっとして顔を見合わせた。

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