23話 【呼び出し手】と【魔神】の邂逅

「ぐっ……!?」


 巨大な腕に捕まって割れた空間に引き込まれた俺は、一瞬意識が暗転したような感覚に陥った。

 しかしその直後、すぐそばから聞こえた重々しく魂まで凍るような声音にすぐさま我に返った。


『何だ、このジャリは? 神獣どもに混じってこんな奴がいたのか』


「……がはっ!?」


 声が聞こえたのと同時、俺は投げ飛ばされて宙を舞い、岩肌に叩きつけられた。

 肺から空気が絞り出されて視界がチカチカとするが、倒れている場合でもないかと即座に起き上がる。

 そして俺の目の前に現れていたのは……巨大な骸骨の怪物だった。


「明らかに生き物じゃないな、こりゃ……」


 そいつは体中が骨で構成されているくせに、その上から大小様々な骨と闇色の外套にも見える瘴気を纏っていた。

 それでいて、落ち窪んだ眼窩からは赤い光が爛々と照っている。

 まるでおとぎ話に出てくる死神の姿だった。

 また、化け物は俺が立ち上がったのを見て骨が擦れ合ったような音を立てた。

 ……それが奴の笑い声だと気がつくまで、あまり時間はかからなかった。


『クカカカカ! ジャリの分際で立ち上がるか、どうして中々気骨のある奴!!』


「お前、一体何者だ! どうしてマイラを狙った!!」


 俺は長剣の柄を握り、化け物に負けじと吠えかかった。

 目の前の化け物からは尋常ならざるプレッシャーが放たれていて、気を抜けば心臓を握りつぶされそうな気さえした。

 化け物は眼窩から放つ光を増し、辺り一帯に反響するような声で言った。


『オレの名を聞くか、ジャリごときが! しかし良いだろう、冥土の土産に教えてやろう。 オレの名はデスペラルド。【七魔神】の一柱にしてこのダンジョンを統べる者なり!』


「なっ……魔神だと!?」


 そんな馬鹿な、魔神は初代【呼び出し手】と相打ちになったんじゃなかったのか。

 ……だが奴は「七魔神」と言った。

 つまり、魔神は全部で七体もいる……!?


「……それにダンジョンを統べる者、か。つまりお前のいる場所に連れてこられたってことは、ここはダンジョンの最奥って訳か?」


『カカカ、おうともさ。お前たちが辿り着くのを待っているのも、思っていた以上に退屈でな。そこで【番人】の部屋まで到達した褒美として神獣どもを一体ずつ我が居室に案内し、料理してやろうと思ったまでのこと。……しかし釣れたのがジャリとは、興ざめもいいところだ』


 デスペラルドは心底つまらなさそうに呟いた。

 次いで体に纏う闇の瘴気を強め、そこから闇色の大鎌を掴み出した。

 いよいよもって、このデスペラルドとか言う魔神が本物の死神に見えてくる。


『お前はオレの前に立つにはふさわしくない、食らう価値もない。……ならばこの鎌で肉を裂き、内臓をえぐり出してからダンジョンを徘徊するグールの末席に加えてやるのがせめてもの慈悲というもの』


「随分と身勝手な言い様だけど、俺だってそう簡単にやられるつもりはない。……こんなジメジメしたところでくたばったら、ローアをおんぶするって約束も守れないしな!」


 俺は長剣を引き抜き、フィアナの力を全力で解放した。

 前に長が襲来してきたこともあり、有事の際には俺もある程度戦えるよう、実は武器から神獣の力を引き出す鍛錬をこれまで少しずつ積んでいたのだ。

 その成果か刃からは爆炎が立ち上るだけでなく、俺の周囲では炎を孕んだ竜巻が吹き荒れていた。

 その炎を見て、デスペラルドが僅かに目を細めた気がした。


『ほお、人間(ジャリ)のくせに神獣の力を扱うか。……それにその目、あの男を彷彿とさせる。あぁ、実に不愉快なり!! その不敬は万死に値する!!』


 デスペラルドはぶつくさと吐き捨てるように言い放ち、大鎌を俺へと振り上げて来た。


「うおぉ……っ!!」


 デスペラルドの体躯は、軽く見積もっても俺の数倍以上はある。

 そんな巨躯から放たれる大鎌の一閃は絶対に受けられないと、俺は全力でその場から飛び退いた。


『チィッ、ちょこまかと……!』


 デスペラルドの大鎌が残像を残して地を割り砕いた時には、俺は既にひと蹴りで遠方まで下がっていた。

 普段の俺にはこんな超人的な能力はないが、今はフィアナの爆炎を全身に纏って強化されている状態。

 あんな規格外の化け物の攻撃も、全力ならば回避も難しくない。


『ならばこれはどうだ、もっと舞うがいい!』


 デスペラルドは体から闇色の瘴気を吹き出し、矢のような形状に変化させて雨あられと俺に撃って来た。

 矢は一本一本が俺の身長ほどもあり、一発掠めただけでも体を捥ぎ飛ばされかねない。


「ローア、頼んだ!」


 俺は短剣を引き抜いて水平に振り、アースドラゴンの力で直下の地面を隆起させた。

 その反動で天井すれすれまで跳ね飛び、矢の雨を回避する。


『不死鳥の力に、ドラゴンの権能……! お前、まさかこの時代における【神獣使い】か!!』


「【神獣使い】……? 【呼び出し手】のことか?」


『戯れ言を……ッ! その力をこのデスペラルドの前で振るうことの意味、身を以て教えてやろう!!』


 激昂したデスペラルドは、闇の矢を次々に放ってくる。

 フィアナの爆炎とローアの能力を使い俺も次々に回避を重ねていくが、このままだとジリ貧なのも事実。

 やはり剣の届く距離で戦う必要があると、俺は地を蹴り砕く勢いでデスペラルドへと跳躍した。


『わざわざ飛び込んで来るとは! 愚かなり【神獣使い】!』


 デスペラルドは俺の体を真っ二つにしようと、大鎌を横薙ぎにしてきた。

 跳躍して空中にいる俺は、今更体勢も変えられないので回避は不可能。

 ……だが、しかし!


「マイラの水防御を舐めるなよっ!」


 腕輪から水が解き放たれ、大盾の形状となってデスペラルドの大鎌を防ぎきる。

 大鎌からは闇の瘴気が漏れ出し、大盾と接触している面からはチリチリと火花が散っていた。


『小癪な小技を……!』


 デスペラルドが予想外の防御を受けて固まった一瞬の隙を、俺は逃さなかった。


「ラァッ!!!」


 長剣から吹き出る爆炎を最大限にして、デスペラルドの大鎌を斬り上げる。


『グゥッ……!?』


 大鎌と共にデスペラルドの両腕が跳ね上がった刹那、俺は真正面にまで迫っていたデスペラルドの胴をすれ違いざまに長剣と短剣で切り裂いた。

 決して軽くはなかった反撃に、デスペラルドは苦悶の声を上げた。


『ガァァ、貴様ァ……!!』


 デスペラルドの体は切り裂かれた部分の瘴気が消え失せ、光にかき消されたかのようになっていた。

 その光景と連動するかのように、【呼び出し手】スキルが教えてくれた。

 たとえ正真正銘の【魔神】であったとしても、神獣の力が宿った武器の攻撃なら十分有効……!


『赦さん、赦さぬぞ! このデスペラルドに手傷を負わせた以上、ただで死ねると思うなァ!!!』


 デスペラルドは体から吹き出す漆黒の瘴気を強め、周囲空間を闇で閉ざす勢いだった。

 どうやら【魔神】を本気にさせてしまったらしいと内心冷や汗をかくが、俺は動揺を悟られないようあえてこう口にした。


「どうした、その程度か【魔神】! 皆を狙った上、俺を殺そうとしたんだ。逆に倒されても文句はないな!!」


『カァァァァァ!!!』


 いよいよ【魔神】の本領を発揮しつつあるデスペラルドに、俺はここからが本番なのかと剣の柄を握りしめた。


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新作始めました!


「炎の皇竜がダンジョンを統べる〜俺だけ使える竜のスキルで現実世界のダンジョンを攻略する。冒険者として人生をやり直し、全てを手に入れる~」


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