強欲な者

 その男は、全てが欲しかった。

 金も、名誉も、力も、女も。

 その男には、それらを手に入れられる力があった。

 そして、実際に手に入れた。

 金を手に入れて、豪邸も高級車も手に入れた。

 企業に成功して、多くの人から尊敬される人物だった。

 力を手に入れ、立ちふさがる障害は全て排除した。

 何人もの女を侍らせ、煌びやかな生活を送った。

 絵に描いたような成功者。

 だが、彼は強欲だった。

 もっと。もっと欲しい。いくらあっても足りない。死んでしまうなんて、もったいない。

 そう思った彼は、研究を始めた。

 永遠の命の研究。

 永遠に生きることができれば、俺はもっと満たされる。この欲が、もっと満たされる。

 でも、うまくいかなかった。

 何年たっても、永遠の命を手に入れることは叶わなかった。

 次第に彼は、焦燥感しょうそうかんから周りにきつく当たるようになった。そんな行動が原因で、周りから人が離れていった。自分をしたう人や手に入れた女もいなくなった。研究につぎ込んで、金もなくなった。そうして、栄光が消えていった。

 たった1人を除いて。

 その人は、彼が起業するというときに一番最初に協力したいと言ってきた大学の同級生の女の子だ。

 彼女は、彼を見捨てなかった。最後の最後まで。

 彼が病に倒れ、死ぬ間際になっても。

「……なぁ」

「何?」

「俺は、全てが欲しかった。何もかもだ。でも、永遠の命を夢見て、全てを失ったんだ」

「……………………うん」

「強欲なことは、恥じるべきことじゃないって思ってきし、今でもそう思っている。でも、恥じることじゃなく、恐れるべきことだったんだ」

「…………………………」

滑稽こっけいだよな。よくある童話みたいになっちまった。……こんな最期に、一緒にいてくれるのは、お前だけになった」

「……………………不満?」

「まさか。いてくれるだけでいい」

「そう。……………………ダメだ、泣かないつもりだったのに。涙が止まらないや」

「……ありがとよ」

「……こちらこそ」

「……ああ、もう……満足だ。もう……何にも…………いらねぇや」

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