16話 新入部員と転校部員

練習グラウンドに向かうと、すでに野球部員がグラウンドに集まっており、

山口先生、太田先生もいた。


「お、荒松と一色もきたか」

山口先生が言うと、

「集合!」と全部員に命令する。

全部員が監督の前に整列し、部長の浜崎が挨拶するのに続いて、部員も挨拶をする。

すると、山口先生が

「これから練習を開始するんだけど、その前に、部員の方から、新入生、転校生に向かって自己紹介、次に、今日から新しく入部してくる新入生と、転校生の自己紹介をやってもらおうと思う」

と全部員に伝える。

「まずはキャプテンから。クラス、出身中学、ポジション、趣味。このあたりを話してね」

と山口先生が言うと、浜崎は返事をすると、前に出て自己紹介を始める。

「男子硬式野球部のキャプテン、3年D組、浜崎蓮です。小山東中出身。ポジションはサード。右投げ右打ち。趣味は野球雑誌を読むこと。新入生も、転校してきた一色も、わからないことがあったら、遠慮せず、何でも聞いてほしい。以上です。よろしく」

と浜崎は笑顔で言った。

「副キャプテンの飯島天助。3年E組。宇都宮の陽東中学出身。ポジションはファースト。右投げ右打ち。趣味は推理小説を読むこと。よろしく」

飯田は黒髪にスポーツサングラスをかけた先輩。推理小説を読むことだなんて、なんか頭が良さそうな雰囲気を感じる。

「梶谷源です。作商学院中学出身。2年B2組。ポジションはピッチャー。両投げ両打ち。

このチームのエースしてます。趣味はファッション。よろしく」

両投げ両打ち?一色は目を丸くした。


「内島勝一。2年C組。ポジションは外野手。左投げ左打ち。

趣味はYouTubeで野球系YouTuberを観ること。よろしく」


「荒松豪。2年F組。前は陸上部に所属していて、昨年の秋に野球部に転部。ポジションは内島と同じく外野。右投げ右打ち。趣味は、恋愛漫画を読むこと。野球に関してはまだまだ素人だけど、スタメンを勝ち取れるように頑張ります。そのつもりでよろしく」


「塩田隼。2年F組。ポジションはショート。

右投げ左打ち。足を使ったプレーが持ち味です。趣味は漫画を読むこと。よろしく」


と次々と自己紹介していく。

そして、俺の番になった。


「一色颯佑です。明乃森高校という宮城の私立高校から転校してきました。

ポジションは投手。趣味はアニメ視聴、漫画、ライトノベル小説を読むことです。よろしくお願いします。」

と一色は言うと、

「で、一色くんの好きな作品は『ようこそ実力至上主義の教室へ』。好きなキャラクターは軽井沢恵なんですよね」


「ちょっっっとと!!! 太田先生!!

何で好きな作品とキャラクターまで知ってるんですか!!!」


「だって、私もVやねん高校野球読んだし……」


「あっ……」

一色は太田先生の言葉に固まる。そう言えば、Vやねん高校野球、太田先生が買ってきたって言ったたような……


「ちなみに、私もVやねん高校野球読んだぞ。一色くん。」

山口先生が腕を組みながら言う。


「読んだんですね……山口先生も」

「当たり前だ。一色くんの情報はしっかり入手する必要があるからな」


俺の趣味は必要な情報なんすかね……


「1年C組、八橋辰人。宇都宮西中出身。右投げ左打ち。ポジションは外野手で主にセンター守ってます。趣味っすか……趣味は……お笑い観ることっすかね。よろしくっす」


「1年B組、南野康平。小山城里中学出身。

右投げ右打ち。ポジションは捕手。趣味は……ラーメン食うことですかね。レギュラー獲れるよう頑張ります。よろしくお願いします」


1年生は威勢がいいのぉ……

と一色は感心しながら自己紹介を聞いていた。

自己紹介が終わると、一色は、とある違和感を覚えたの、

「そういえば……」

と、山口先生に問いただす。

「野球部員の人数……少なすぎません?」

30人もいないんじゃないか……一色は、少し心配になっていた。


「知らなかったか? 硬式野球部の全部員数は22人。1年生7人、2年生8人、3年生 7人となっている」

「22人!?」

一色はびっくりしていた。それもそうである。

一色が前いた明乃森高等学校の硬式野球部の部員数は3学年合計90人以上である。

その4分の1以下である。

「一色くんが前いた明乃森高等学校の硬式野球部は全学年90人以上でしたからね。

部員数の少なさに一色くんが驚くのも無理ないですね」

太田先生が一色の気持ちに同調する。

「私と太田先生が良いと思った選手をスカウトして集めて、少数精鋭でみっちり鍛えて、甲子園を目指す。それが、私のチーム方針よ」

……この学校は完全他己推薦制。学校側の推薦がなければ、通うことすらできない高等学校だ。山口先生が選んだ部員達の実力はどんなものなのだろうか。

栃木県とはいえ、毎年県大会ベスト8に入れる実力はある高校だとのこと。それなりに良い選手が揃っているに違いない。



「よし! 話はここまでにして、練習するぞ練習! キャプテンの浜崎くんの指示に従ってウォーミングアップを始めて。」

と山口先生が声を張る。


1年生を含めた部員達は浜崎の指示に従ってウォーミングアップを始めた。


ウォーミングアップ後は、1年生と一色と2年の塩田、2年生3年生に別れてのメニューとなった。

1年生と一色は塩田の指示に従って、サーキットトレーニングに取り組んでいた。


徹底的に体を追い込んでいく。


一方で、2年生3年生は山口先生のノックを受けていた。

サーキットトレーニングをしながら、チラッと山口先生のノックをみる。

山口先生、ノックが上手い。野球経験豊富な明乃森高等学校の監督より上手いんじゃないかってぐらい、上手い。

ノックが終わったら、走塁、盗塁練習。

春大会が近いということもあって、様々なシチュエーションを交えながらの走塁、盗塁練習に打ち込んでいた。


サーキットトレーニングの休憩中、一色は同級生の塩田と話していた。

「塩田」

「どうした? 一色?」

「塩田は2年生3年生との練習に混ざらないのな」

「僕、右肩を怪我していて、まだ完治していないからね。だから、春大会には出場しないということで、こうして、1年生に混じって練習してる」

「そうなんだな。右肩の方は大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないよ……今年の冬にトミュージョン手術をしたから、完治するまでは代打と走塁要因だろうね……完治は……早くて来年の冬だね」

「トミュージョン手術?」

「そう。トミュージョン手術。」

「トミュージョン手術って、投手がするイメージあったから、野手でするのは意外だな……」

塩田の発言に、一色は驚いていた。


「……一色はあれでしょ。転校したら1年間試合に出れないから……」

「まぁ、そういうことだな。俺は来年の春まで試合に出れない」

と一色は塩田の指摘に頷いていた。

その後も一色は塩田と話していた。前の学校のこととか、今の学校のこととか、

その他諸々。

そして、


「よし。休憩時間終わり。サーキットトレーニングの続きを行うよ!」

と塩田は時間を確認するや、休憩している1年生に声をかける。


地獄のサーキットトレーニングの再開である。


2時間のサーキットトレーニングを終えると、一色と1年の南野が太田先生に呼び出された。


どうやら、2・3年生がフリーバッティングするとのことで、

そのバッティングピッチャーをするよう、一色は頼まれたのだ。

南野は一色の捕手をするよう頼まれた。


「バッティングピッチャーと言っても、思いっきり投げてもらって構わないから。

その方が、2・3年生にとってもいい練習になるだろうし。南野くんも、一色の球を受けて、色々学んでほしいと思ってる」

と一色と南野は太田先生に言われる。


ということで、1年生の南野とバッテリーを組むことになった。


肩を作るため、南野と一緒にブルペンに入る。

「南野が出したサインに俺は従うからよろしく」

と南野に球種を教え、サインを確認してから、一色は南野のミットを目がけて投げる。球速はかなり出ていたと思う。

そして、肩を作り終えた一色は、南野と一緒にグラウンドへと向かい、マウンドに立つ。


最初の打者は荒松。

「さてと、甲子園出場予定校のエースだった一色の球はどんなものなのかな」

と笑顔でバッターボックスに立つ。


容赦しない。


一色は南野のサインに従い、思いっきり腕を振る。

外角低めのストレートを荒松は豪快に空振りした。


ストライクを取ったものの、荒松の豪快なスイングに一色はびっくりした。


これは……当たればかなり飛ぶだろうな。ほんとに高校から始めたのかよ。

めっちゃ良いスイングしてるじゃん……


一色は2球目もストレートを投げる。真ん中高めだ。荒松は豪快なスイングをするも、またしても空振り。

一色のストレートに完全に振り遅れている。


そして、3球目。外角低めのストレートを空振り。三球三振、全球ストレートで抑えた。


「あああああああああああああ!! クソ!!」

と荒松は悔しそうな表情をしていた。


「三球三振とはな……よし。俺が打ってやる」

と梶谷は悔しがる荒松を見た後、バッターボックスに立った。


一色は梶谷のフォームを見て驚く。


「こ……このバッティングフォームは……」


一色が驚くのも無理はない。そう、梶谷のバッティングフォームは、大谷翔平選手にそっくりだったのだ。


「まぁ、バッティングフォームが同じだからと言って、大谷翔平選手みたいな打球は飛ばせんだろ」


一色はそうポジティブに考え、南野のミットをめがけてボールを投げる。


梶谷への初球は真ん中のストレート。


そのストレートを梶谷はフルスイングで捉えた。


打球はグングンを伸びていく。


「う、嘘だろ……」

一色は打球の行方を心配する。ど真ん中とはいえ、140キロは超えてたストレート。

思っていた以上に飛ばされたことに驚きを隠せなかった。


そんな梶谷の打球はセンターの八橋がキャッチした。フェンスギリギリのセンターフライだった。

一色はホッと胸をなでおろす。


「いや~入ったと思ったんだけどな」

と梶谷は悔しそうな表情する。

「大谷選手のようなフォームから、大谷選手みたいな打球を飛ばしていたな……体格も大谷選手とは全然違うのに……」

一色は大きく深呼吸をする。というか、梶谷があんな打球を飛ばすとはな……

その後も2・3年生相手に投げたが、ヒットを打つことはできず。

仮にも昨年夏の栃木県大会ベスト8校相手に

26打席(塩田を除く2・3年生が各2打席立つ)で三振20。フライ1、ゴロ5という結果だった。



練習が終わり、硬式野球部の部室内。

「一色、お前、めっちゃ良い球投げるんだな」

荒松が一色に声をかける。

「そうか?」

「とぼけるなよ。あんないいストレート投げておいて「そうか?」はないだろ」

と荒松は一色の発言に呆れていた。

「全球ストレートで三球三振とは……俺もまだまだだな……」

「いやでも荒松、めっちゃ良いスイングしてたぞ」

「当たらなきゃ意味ねえよ……」

荒松は落ち込む。

「俺の当たりは惜しかったけどねぇ……」

梶谷は荒松と一色の話に割り込んでくる。

「梶谷の打球にはヒヤヒヤしたわ……」

一色は苦笑いする。

「一色の球を受けててどうだった?南野?」

浜崎は南野に聞いてみる。

「球がめっちゃ走ってましたね。さすが、甲子園出場投手ですね」

「いやいやいやいや、俺、甲子園出てないから!! 甲子園出場「辞退」投手ね!!」

南野に突っ込む一色に部内は笑いに包まれてた。


「そういえばさ、明日、健康診断なんだよね。一色」

「ああ、そうだな」

「変な病気に引っかかるなよ」

「ははは、大丈夫だよ俺は」

と一色は言って、荷物をまとめて部室を去った。


「あ、そういえば……明日のフリーバッティングでは、俺が投げることを言うのを忘れてたわ……」

梶谷が部室のドアを見ながら呟く。

「あ、言うの忘れてた……」

「どうした? 八橋?」

「いや、何でもないっす」

「そうか……」

梶谷が八橋が一色に何を言うのか気になっていたが、詳しく聞こうとはしなかった。


そして、明日の学校で、一色は衝撃の事実を伝えられることとなる。
































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