15話 陸上部のルール

一色は陸上競技部の部室がある方を見て、罪悪感からか、すぐさま目を逸らした。


「あの……葉乃川さん」


一色が目にした光景は、外で着替える葉乃川の姿だった。

で、葉乃川がスパッツを履くために、パンツを脱いでいる最中に、

一色とバッタリと出くわしていた。

さすがに女子のあれを隠すためにジャージを腰に巻いていたが……

非常にまずい。目のやり場に困る……

というか……なんで、外で着替えているんだ。

目の前に陸上競技部の部室があるだろ!!部室の中で着替えろよ。

葉乃川は顔を真っ赤にして着替えていた。

そりゃそうだろ。異性に自分のパンツを見られるとか、屈辱と恥ずかしさでいっぱいになるだろ。


「おい、どうした? 一色」

「は、葉乃川さんが……」

一色の言葉で、荒松は葉乃川をみる。

「ああ、なるほどね……」

「なるほどね……ってなんだよ」

一色は荒松に質問すると、荒松は気難しそうに答えた。

「陸上競技部のルールだな」

「ルール?」

一色は疑問に思う。

「俺、陸上部の友人から聞いたことあるんだけど、G組の生徒は部室で着替えることができないというルールがあるとか……」

「ええ……なんだよそれ……」

一色はドン引きしていた。だから外で着替えているのか……


「なら、自室やトイレで着替えてくればばいいのでは……」

「教室から自室まで10分もかかるし、トイレは……そもそもトイレで着替えるのは

この学校で禁止されてるのよ」

葉乃川は恥ずかしそうに答える。

「いや、学校で禁止されてようが、トイレで着替えてもいいだろ。どうせバレないだろうし」

「バレるのよ。これが」

「は?」

「トイレの入り口にセンサーが付いててね。トイレに衣類を持ち込んだ場合、トイレの扉があかないシステムになっているの」

「何だよそのシステム……」

く、くだらなすぎる……一色は呆れていた。

「いや、ならさ……制服の上には……変かもしれないが……着替えを重ね着してトイレに入ればよくね?そうすりゃ、『持ち込んだ』ことにはならない」

一色は提案する。

「いや、それも試したけど無理だったわ……なぜだか知らないけど……」

葉乃川は恥ずかしそうに答える。ほんと意味わかんねえな。この学校。

「というかさ、G組は部室で着替えちゃいけないって、理不尽ルールすぎるだろ」

「理不尽だけど……でも……それが陸上部のルールだし……」

「そんなくだらないルール、ぶっ壊しちゃえよ」

一色は呆れながら言うと、葉乃川がハッとした表情をする。そして、

「おい、一色、お前……」

小声で荒松が言ってくる。

「ん? どうした? 荒松も葉乃川も強張った表情をして……」

一色は疑問に思うと、後ろから

「陸上部のルールをくだらないルールとは……随分威勢のいいこと言ったね」

と誰がか言ってきた。

「そ……外間先輩! お疲れ様です」

と葉乃川が威勢のいい挨拶をする。と……外間先輩……

「うん。お疲れ、葉乃川さん。早く着替えて集合ね」

「はい」

と外間は言い残し、外で着替えている葉乃川をほったらかしにし、陸上部の部室に入ろうとする。

「ちょっと待ってください」

「……なに?」

「葉乃川さん……外で着替えてるんですが……」

「……だから何?」

「いや……なんで外で着替えているのか……単純に気になってまして……」

一色は陸上部のルールでG組の生徒は外で着替えなければならないことは、葉乃川の発言により知っていたが、あえて知らないふりをした。

葉乃川の威勢のいい挨拶っぷりをみると、この先輩……

かなり厳しい方なんじゃないかと……一色は勘づいていた。

これでもし、真っ先に

「葉乃川さんから、陸上部のルールについて聞きました。これっておかしくないですか?」

なーーんて言ったら、俺だけじゃない、陸上部のルールを一色に教えた葉乃川さんまで締められそうだ。

あるいは

「外で着替えているんですけど、これって陸上部のルールなんすよね。これっておかしくないですか?」

なーーんて言ったら、転校してきた部外者がなんで陸上部のルールを知ってるんだとなって、

今同じフロアにいる陸上部の葉乃川さんが陸上部のルールを一色に教えたとして責められそう。

だからあえて、外間先輩から、陸上部のルールを口に出すよう誘導する。

そうすれば、外間先輩は、外間先輩の口から陸上部のルールを一色に話したということになる。

つまり、葉乃川さんは責められることはない。

「陸上部のルールでな。G組の生徒は部室で着替えることが許されない。外で着替えるというルールがあるんだ」

外間はあっさりと一色に伝える。い、意外だ……誰から見ても変なルールをあっさりと俺に伝えるとは……

一色は意外そうな表情をするが、すぐさま切り替え、

「独特な……ルールっすね」

「陸上部は人数が多くてな。部室が大混雑になっちゃうからな……部室の広さ的に部員全員いっぺんには着替えられないし……だからこのルールを作ったんだ」

外間は弁明した。

……なんか嘘っぽい。というか、嘘だな……

なぜ嘘だと思ったって?

それは陸上部の部室……野球の部室の3倍……いや、5倍の広さを誇るからである。


部室の配置図を見た時ビビったよ。

陸上部の部室、めっちゃスペース取ってるんですもん。

ちなみに、男子陸上部の部室で野球部の5倍、

女子陸上部の部室で野球部の5倍ある。

決して野球部の部室が狭いというわけでない。

野球部の部室だって十分な広さだ。ロッカーの数は30個あり、部員がくつろげるスペースもある。野球部員の数を推測するに、

着替える時間を上級生優先で学年ごとに分散すれば、

全員が部室内で着替えられるだろう。


いっぺんに着替えられないからといって、外で着替えさすか?

時間帯を分散して着替えればいいだけではないか?

というか、陸上部の部室、野球部と比較にならないぐらい広いスペース使っておいて、部員が大混雑になって着替えられませんはさすがにおかしいだろ。

仮に野球部のロッカーの数を基準にして、陸上部のロッカーの数を推測すると、男女各150個になるわけだけど……そしたら、どんだけいるんだよ陸上部員。

大混雑になって部員全員いっぺんに着替えられないとかほさいでますけど……

外間の発言が仮に本当だとすると、150人以上はいるってことになるけど……

走るの大好き集団多すぎ問題ですわ。


「で、女の子を外で着替えさせるこのルール、欠陥ですね。」

と一色は作り笑顔で外間に伝えると

「欠陥? どこが?」

「いや~すみません外間先輩。うちの野球部員が無礼な行為を……」

「お、おい! 荒松!」

と荒松は一色の意向を無視して背中を押して連れ去っていった。


部室棟を出た一色と荒松。

一色はかなり怒っている様子だった。

「荒松、お前なんで外間先輩のことを庇ったんだよ」

一色は荒松に問いただすと、荒松は少し間を置いた後、

「……外間先輩は陸上部の総合部長なんだよ。そして……3年SA組。」

と嫌そうな表情をして言った。

「総合部長?」

「総合部長ってのは、男子陸上部の部長と女子陸上部の部長よりも立場が上……

つまり、顧問を除いた陸上部の中で1番偉い人だな。外間先輩は」

「そうなのか……」

「そして、G組の連中は部室で着替えてはいけない。外で着替えろというルールを作ったのは、外間先輩だ」

「は? マジで?」

一色は驚いていた。あんなクソルール、誰が作ったのかと思ったら、外間先輩だったのか……

「で、3年SA組ってことは……S、もしくはAランクの選手ってことで良いんだよな。外間先輩は」

「うん。そうだね。外間先輩はAランクの選手。ハンマー投げで全国トップクラスの成績を残しているんだよ」

と一色の質問に対して、荒松は答える。ハンマー投げで全国トップレベルの選手が、クソみたいなルール作るんだな……Aランクが泣いてるわ。

「そして、昨年のクラブカーストバトルトーナメントでは、上級生がいながら2年生でベスト8入り。そして、今年の学内総合ランキング4位の選手」

クラブカーストバトルトーナメントって……

あのCCBS(クラブカーストバトルシステム)を使った学校主催の

異能力バトル大会か!

「学内総合ランキングって?」

「部活動、学力、CCBSを使った大会、素行面を加味した全校生徒が対象のランキングのことだよ」

と荒松が説明する。

「……そして……外間先輩を敵に回すとヤバいから、俺は外間先輩を庇った。あの人を敵に回したせいで俺は……」

「……敵に回した結果、お前はどうなったの?」

一色の発言に対して、荒松は少し間を置いた。そして、少し息を吐いて、

「俺は陸上部を退部することになった。」

と荒松は口にした。

「え?」

一色は驚いていた。

「で、陸上部から戦力外通告を受けた俺は、野球部の監督である山口先生に誘われて、野球部に転部することになったってわけ」

荒松の言葉1つ1つに、一色の脳内では衝撃が走っていた。

外間先輩を敵に回したら退部……

「いや、でも俺は陸上部とは! 何の関係もないし……」

「外間先輩に目を付けられたら、陸上部以外の生徒でも容赦しない。外間先輩は……そういう人だと思う……」

と荒松は言った。

「まぁ、今のところ……外間先輩は、陸上部以外の生徒には目を付けていないから……大丈夫なのかもな……」

「だろ?」

と考えた荒松に、一色は笑顔で返す。

「というか、早く行こうぜ。もうみんな集合してるだろうし」

一色はそう言うと、荒松も同意し、走って練習グラウンドへと向かった。





















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る