13話 一色の部屋

しかし、外に出たはいいが、どうすりゃいいのか……

この学校、敷地が広すぎてどこに何があるか、まだ把握しきれてないのにな……


すると、

「持ってきたよ!! タオル!!あと着替えも!!」

と高川がやってきた。


高川、よくこの場所がわかったな……と思ったら、どうやら島野とLINEで集合場所についてやり取りしてたらしい。


「ありがとう。もう大丈夫」

と葉乃川は言ったので、一色は降ろした。


そして葉乃川は高川から渡されたタオルで顔と服、髪の毛を拭いた。


「ほら!一色くんや島野くんも!」

と高川さんはタオルを2人渡した。

「あ、ありがとうございます」

「ありがとう。高川さん」

とタオルを渡された島野と一色はお礼を言った。


「で、どうする? これ? 島野も、葉乃川さんも。」

と一色は苦笑いしながら言う。


タオルである程度拭いたとはいえ、髪の毛に付着したカレーの匂いとかついてて、何か色々と気持ち悪い。


これはシャワー使うしかないな……


「シャワー室ってどこにあるん?」

と一色は言うと

「シャワー室は部室塔の近くあるんだけど、この場所からだと遠いんだよなぁ……」

と島野が答える。


「この近くだと、寮ね」

と水森は言う。


そうか、たしかに、今いるこの場所の近くには寮があるな。

そして、部屋にはシャワーとバスタブが常設してある。


誰かの部屋を借りればシャワー使うことができるのだが……


……ん? なんで一斉に俺の方を見ているのだ?


「なぁ……みんな俺の方を見てどうしたんだい?」


「私の部屋はちょっと……」

「ごめん!一色くん!僕の部屋もちょっと……この通り!!」

「私の部屋もごめんだね。カレーまみれで部屋に入りたくないわ」

「そういうことだから、一色くんの部屋貸して」

と全員が一色にお願いしていた。おい、ちょっと待て。それはないだろ。

ってか、おい、葉乃川さん!!

俺の部屋はいいのかよ。


「水森さんの部屋は?」

「……一色くんの部屋貸して」

おい、水森さん、質問無視するな。

というか、水森さん、あなた何もしていない……


ま、あのカオスな場に水森さんを行かせるほうが問題だとは思うしな……


ともあれ、カレーまみれのこの状況をどうにかしないとな……

さて、どうするかね……

一色はうーんと悩むも、

「……わかった。浴室貸してあげるから、俺の部屋についてこい。案内する」

「ありがとう。一色くん」

と全員を引き連れて自分の部屋に案内しようとすると、みんなは一色に感謝していた。


そして、歩くこと数分、自分の部屋に着いた。

まさかこんな形でクラスメイトを自分の部屋へと招き入れるとはなぁ……


一色は鍵を取り出し、自分の部屋のドアを開けて

「OK。入って」

と中に入れた。

一色の部屋はというと、ダンボールだらけだ。

まだ荷解きが終わっていなかった。


そんな中、本棚の整理は一応終わっていた。


整理整頓された本棚には、漫画が数多く置いてあった。

「おお!五等分の花嫁がある!!」

島野が嬉しそうだ。


「私も知ってます!! 五つ子ちゃん達、可愛いですよね!!」

と高川も嬉しそうに言った。高川さんはラブコメ漫画とか無縁そうなイメージだったから、この反応にはちょっと驚きだな。


「五月ちゃん、かわいいですよね」

「五月ちゃんも可愛いけど、僕はやっぱり二乃ですね」

「あーー!二乃も可愛いですよね!」

高川と島野とこの話題で盛り上がるとは……

初見では想像できなかった。


「『ToLOVEる』ねぇ……」

「一色……あんた……こんなの読んでたの?」

「こんなってなんだ?『ToLOVEる』めっちゃ面白いんだぞ!!」

水森は『ToLOVEる』が置いてあるや苦言したが一色は言い返した。


「『ようこそ実力至上主義の教室へ』?何これ?」

葉乃川が一色に聞く。

「ああ、これはライトノベルね。学園ものの」

「これもライトノベルだよね」

高川も話に乗ってくる。

「『冴えカノ』『俺ガイル』……そうだな」

と一色はライトノベルのタイトル名を見るやそう答えた。


「『ワールドトリガー』とか『ドクターストーン』、『ハイキュー!!』もあるね」

「『吸血鬼すぐ死ぬ』とか『ぐらんぶる』とか、『邪神ちゃんドロップキック』とかあるね」


みんなが長い時間、一色の本棚を見てワイワイとしていたからか、一色は、

「というか……島野、葉乃川……お前ら……さっさとシャワー浴びろ。まぁ、俺もだけど……」

と苦言した。


島野と葉乃川は返事する。


葉乃川は浴室へと入っていった。


葉乃川がシャワー中、

「しっかし、制服、かなりカレーで汚れているわね。これ、クリーニングで落ちるのかな?」

葉乃川の脱いだ制服を見て、水森はそう思っていた。

「落ちるんじゃない?多分……まぁ、俺と島野、葉乃川は明日ジャージ登校確定だな」

一色はがっかりした表情をしていた。

まさか、初日から制服を汚すとはなぁ……

「そういやさ、葉乃川さんについて……何か事情知ってる人とかいる?」

「どうして葉乃川さんのことを?」

と島野が逆に質問してきた。

「いや……葉乃川さんのことをカレーまみれにしてた女子がよ……葉乃川さんに暴言吐かれたとか……寝取られたとか……いじめられたとか……そんなこと言ってたからよ……少し気がかりでな……」

「私、葉乃川さんとは1年の時、別のクラスだったから、よくわからないわ」

「あ、そうなの?」

水森の返答に一色は驚く。すると、

「葉乃川さんは1年B1組の生徒だったんだよ」

と島野がフォローする。

マジか……B組ってことは……穂村と同じランクだったってことか。

しかし、なんでB組からG組に落ちたんだろう。

穂村は暴言とか暴力とかの素行面だけど……葉乃川さんはなぜ……


「そういや、葉乃川さんって何部なん?」

「陸上部。僕と一緒の部だよ」

「え? そうなの?」

一色は島野と葉乃川が同じ陸上部だったことに驚いていた。


そういや、葉乃川さん、スタイル良かったよな……スラッとしてて……そう考えると

陸上部は納得なのかも……

「同じ陸上部ってことで何か葉乃川さんのことについて知ってることはない?」

「ないかなぁ……同じ陸上部だけど、あまり接点ないし、葉乃川のことは、あまりよく知らないんだよね……」

「そ、そうなのか……」

と一色は残念そうにしていると、水森はあることを思い出す。


「あ、そういや……今思い出したんだけど、たしか、怒鳴っていた女子が言っていたわね……『F組を馬鹿にしやがって』……って。

もしかして、F組だけでなく、G組も葉乃川に馬鹿にされてたとか、ない?

不謹慎な話かもしれないけど……」

水森はみんなに聞いてみる。そうだったわ。暴言の内容そんな感じだったな。

すると、

「実は……そうなの……1年生の時に、葉乃川さんがF組だけでなく……G組のことも……馬鹿にしてたの……」

「え?そうなの?」

「だから、G組の間では葉乃川さんのこと嫌ってる人多くて……」

と高川が口を開き、俯いて言う。

……もしかして、岡崎が女子で唯一葉乃川のことを紹介しなかったのって……


そういや、葉乃川さんを助けにいったのは、

途中で退席したG組の武道三姉妹と岡崎を除くと、

着替えとタオルを取りに行った高川さん……先生達を呼びに行った文化系三姉妹と水泳部の子、身体を張って助けようとした島野、穂村、そして俺。


水森さんを除くとして、他の人達はどうしたよ……ってか、

他の人達って全員男子だよな……


たしか……G組の男子って全員食堂にいたよな……別の席に座ってるの見かけた。


いや、全員ではなかったな……俺、穂村、島野、岡崎の他、3人ぐらいか。


怖くて助けにいけなかったってことなのか?

いや、でも男子達は怯える様子もなく、ワイワイと談笑してたよな。

喧嘩には目もくれず……


葉乃川さんのことを嫌っているとしたら、彼らの行動には納得がいく。


葉乃川さんのことを嫌っているから、助けに行かない。


「でも、高川さん、真っ先に『着替えとタオルを持っていきます』って言って、こうして葉乃川さんのことをケアしているよね。

何なら島野くんは葉乃川さんを助けようと身体を張った。葉乃川さんはG組のことを馬鹿にした人なのに、どうして助けようとしたの?

私や穂村くんは1年の時はG組じゃなかった、一色くんは転校生と、葉乃川さんに関する情報を知らなかったからまだしも。島野くんと高川さんは1年の時もG組。葉乃川さんがG組の生徒に暴言を吐いていたことは知っていたはずよ」

と水森は険しい表情をして高川と島野に質問する。

これに対して高川は

「G組のことを馬鹿にしたとはいえ、カレーをかけられていじめられている葉乃川さんの様子が見ていられなくて……それで助けようと……」

と俯きながら答えると続けて、

「僕も、高川さんと同じ意見だ」

と島野も口を開いた。すると、


「上がったよ」

と葉乃川がタオルで髪の毛を拭きながら一色達の元にやってきた。


「わかった。島野、先シャワー使っていいよ」

と一色が島野に言うと、続けて

「あと、水森さんと高川さん、俺たちはもう大丈夫だから。教室に戻っても大丈夫だよ。ありがとうね。」

と一色は感謝すると

「そうね。もう部活動始まってるし、そろそろ行かないとね。……あとは任せてもいいかしら?」

「もちろん」


一色は水森のお願いに頷く。

すると、水森は一色の部屋を出た。そして、高川も水森についていく形で、一色と葉乃川に軽くおじきしてから、一色の部屋を出た。


葉乃川と一色は2人きりになった。


一色は葉乃川と2人きりになったのを確認すると、

スマホを弄っていた葉乃川に話を切り出す。

「葉乃川さん、以前にF組にG組に暴言吐いたんだって」

葉乃川の手の動きが止まる。

これは、図星だったか?

「それは……誰から聞いたの?」

「クラスメイトの高川さんから」

一色は葉乃川の目を見る。葉乃川は「そう」と言って、スマホを弄り始めた。

「……葉乃川さん、G組やF組に対して暴言吐いたことが本当だとしたら、謝るべきだと思うのだが……」

一色の言葉を、葉乃川は無視してスマホを弄る。

「俺さ、F組の暴言女子の肩を持つ気は全くないのだけれど、葉乃川さん、暴言以外にも何かやらかしてるでしょ?違う?」

と一色は葉乃川を問い詰める。一色の問い詰めに、葉乃川は完全に動揺していた。


F組の暴言女子の葉乃川に対する発言はたしか、

・F組、G組の生徒に対する暴言

・F組の生徒に対するいじめ

・F組の生徒が付き合っていた彼氏を寝取る


だったよな。


今んとこ、判明しているのは、F組、G組の生徒に対する暴言が本当だということだ。


「あたし……帰る」

と葉乃川は言い残し、一色の発言を完全無視して、ドアを開け、帰っていった。


葉乃川が帰っていった数分後、島野がシャワーを終え、帰っていった。

俺は1人、この部屋の中で悶々とした気持ちになっていた。

シャワーを浴びながら考える。

葉乃川さん……あの動揺っぷりを見る限り、

暴言以外にも何かやらかしたのは確定だろうな……

いじめの全容とか……寝取られの全容もわかってはいないな……

しかし……初日からカレーまみれとは……

とんだ日だな……


一色はそう思いながら、体を洗っていた。


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