ある老人の手記

・ここに閉じ込められて3日経った。洞窟を利用した地下室なので外の様子が分からない。あの猛獣の群れは大地を埋め尽くすくらいにいた。地平線の向こうにまで広がるくらいいた。だからまだいるかもしれない。水は地下水で賄えるが、食料があと4日分しかない。


・翌日。必死に扉から外の様子を窺おうと耳を澄ませたが、とんと聞こえない。非常に分厚い扉だからよく聞こえないのだ。加えて私は年を取っていて、耳が遠い。どうしたものか。


・翌日。食料を必死に倹約しているが、話し相手と太陽の日差しが恋しい。ランプと蝋燭の灯りでは物足りない。私は1人だ。他に仲間がいたが、みんな殺された。私1人がここに逃げ込んだ。でも、ここも生殺し状態だ。


・翌日。食料はどんなに倹約してもあと3日しかない。それも空腹を必死に抑え込んでの話だ。思い切って扉を開けようと思ったが、怖くて開けられない。誰か助けに来てくれないか?そう言えば、仲間の1人が助けを呼びに行くと言っていたが…どうなったのだろう?


・今日も静寂と空腹の繰り返し。手元に短剣がある。喉元に突き付けてみたが…突き刺す事が出来なかった。何度も迷って、結局夜を明かした。私は臆病者だ。


・夜を明かし、私は賭けに出る事にした。最後くらい、男らしく堂々としていたい。私は扉を思い切って開ける。もし続きが記されていたら、私は賭けに成功した事になる。もし記されていなければ…察してほしい。せめて短剣を武器に持って行こう。



(この手記が見つかったのは、最後に書かれた日から推定一週間が経過した時だった。パワード・アーマー小隊が発見した。もう少し早ければ、このご老人は助けられただろう。だが今は、黙祷を捧げるしかない。彼の短剣を、手記と共に保存する事を進言する)

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