短編集:鋼鉄の巨人の回想

桂枝芽路(かつらしめじ)

鋼鉄の巨人の回想

 当時、私は避難民の1人だった。無数の怪獣の群れに滅ぼされた国の民で、隣国に避難中だった。着の身着のまま、命あるだけでめっけものだった。


 国境で、見た事のない巨人が数名立っているのを見かけた。全身が鋼鉄の鎧に覆われているようで、武器のようだが見た事のないものをたくさん身に着けていた。


 しかし私は心配だった。「奴らが来たら、本当に止められるのだろうか」と。私は奴らの獰猛さ、勢いと恐ろしさを知っていたからだ。


 そんな事を考えている時、警告のラッパが鳴った。奴らが襲って来たのだ。我々に追い付いてきたのだ。


 私は避難民の群れからちょっと抜け出して、あの鋼鉄の巨人達を振り返った。彼らは全く動じていなかった。


 近くにいた国境の兵士に聞いてみると、異世界からやって来た兵士達らしい。なんでも私と同じくらいの背丈の人が、あの鋼鉄の巨人の中に乗って操っているのだという。


 そして戦いが始まった。その戦いぶりは、私だけでなく、その場にいた同胞や兵士達を驚愕させるものだった。強烈な炎や閃光、耳を聾する轟音。彼らは我々とは違う武器を使っていた。


 怪獣達は蹴散らされ、撤退した。私達は歓声を上げた。すると鋼鉄の巨人の1体が振り返って、「今の内に避難するように」と言った。


 私達は急いだ。だが、奴らは思ったよりも早く態勢を立て直し、向かって来た。鋼鉄の巨人達は、私達の避難の時間を稼ぐ為に必死に戦った。


 だが、奴らは数を恃みに一心不乱に突っ込んできた。そしてとうとう、防衛線が破られた。鋼鉄の巨人達は次々と引き裂かれた。奴らはやられた仲間の恨みとばかりに徹底的に引き裂いた。


 私はその時、地下道の入り口に入った。でも鋼鉄の巨人達が気になってまた立ち止まり、振り返った。防衛線は蹂躙され、奴らの一部はまだ鋼鉄の巨人達を引き裂き、バラバラにし続けていた。


 その時、まだ動いている鋼鉄の巨人が閃光を発すると、大爆発を起こした。私は爆風に煽られたが、何とか吹き飛ばされずに済んだ。


 爆発が収まった時、周りにいた怪獣達は死ぬか、虫の息で横たわっていた。怪獣達はあまりの凄まじさに怯み、立ちすくんでいた。その間に、私達避難民は、全員が隣国への脱出に成功した。

 彼らの犠牲無くして、私達の脱出はあり得なかった。

 彼らは任務をやり遂げたのだ。自らの命と引き換えに。

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