第四話 彷徨う

あたり一面真っ白。

雲のなか、雲の上という表現をしてもいいくらいには白い。


そんな所に、俺は立っていた。


つーかさ...........聞いてもいい?




「いや、ここどこ!?」



前回の話から何ら進展がないのである。

家の中に出現した門に吸い込まれてここに来たわけだが、どうしてこんな場所に来て決まったのだろう。


某ファンタジー小説なら、草原のど真ん中とか、誰かのからだに憑依したとか、そんなのがある。


こういうテンプレ展開があるものだと思っていたのだが、どう考えてもここ、違うよね?

異世界にしちゃ生き物すらいないし、ましてや太陽の光さえも見当たらない。


ホントに霧だらけ。


「このなんも見えないなかで進めと?」


ちとハード過ぎやしないか?いやハードを越えてルナティック感もある。


目的も分からず誰もなにもない空間に放っておかれる。悲しいし、何より........


「寂しいな。」


............ どんな泣き言いったって、モジモジしてたって進まなければ変わらないし、終わらない。


なんだかんだ受け入れてしまったなら、進んでみるほかない。

いけ!時亜 迅!男見せろ!


でも..........本当どこ進むの?

とりあえず地面が続く限りはまっすぐしかないな。


一メートル先も見えないこの濃い霧のなか、足下の地面だけを頼りに進んでいく。

こんな霧だらけだっていうのに、不思議と湿っぽさがなく、空気が澄んでいる。


とても不思議だ。






何時間歩いただろうか?

いや、体感の話だから実際は三十分程度しか歩いていないのかもしれない。


でもあまりにも長すぎる。

ずっとまっすぐ進んでいるだけだと思いたいが、この霧だ。

いつの間にか曲がっているかもしれない。

方向感覚がおかしくなる。


「いつになったら終わるんだ?」




もうさすがに限界だ、足が痛くなってきた。とりあえず座ってみるか。


「ん?これ............ 土じゃねぇ。何だ?これ。」


手で地面の表面を撫でると、土とは別の感触がした。触った後の手を見ても砂の一粒も付いていなかった。


「何だこれ、土にしか見えないのに感触が石に近い............めっちゃ不思議な気分になるんだが。」


なぜか分からないが笑いが込み上げてくる。

そう思っていたとき、違和感に気づく。

なんか右腕に吸い付くような........

「........................っ!?」

右腕を見てみると、そこには、


ちゅーーーーーーーー


なんか吸い付いていた。

色は青。形状はちょっと太長い。そして吸っているときうねうねと動いている。


っ!?


「◣◌◁►⑮⑩⑵⑳!>#$=(?_.)*@/*!?」


俺は声にならない悲鳴を上げた。

虫だ。芋虫だ。インセクトだ。


咄嗟にその虫を振り払い、今出せる全速力でその場から逃げ出した。

そう、俺は............






大の虫嫌いである。



/////////////////////////////////////////////////////////////////



ぽてっ


その小さい生き物はその場に振り落とされた。


青色の芋虫、それは、少年の血を吸っていた。それによって変化が起こる。


その虫の地面に幾何学的な模様が描き出された。否、出現したのだ。


そして、その芋虫は青色の糸のなかに姿を隠した。


そして、それは鼓動する。


まるで、喜んでいるかの様に。


まるで、何かの始まりを待ち望むかの様に。



///////////////////////////////////////////////////////////////


いやいや!聞いてねぇよ!ここが虫ダンジョンだなんて!おかげで腕でなんか吸われたわ!


うわ...........なんか血が出てるぅ。


絶対成長したインセクトが、俺をまた襲ってくるって!蛾みたいなやつぅ!


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ。」


息切れするまで走った。もう体力も限界だ。

とっくのとうに悲鳴をあげていた。でも進むしかない。


そう思って立ち上がってみる。


「うっ、ぐっ!?」


頭に激しい痛みが走る。少し目眩もする。

ただの立ちくらみか?


とにかく進まなければ...........そう思って前を向いた瞬間、澄んだ空気に草の匂いが混じっているのに気づいた。


「なっ!?」


俺は、気が付いたら『外』にいた。晴天が広がる草原が目の前に広がっていた。


いや、先の方を見てみると地面がない。ということは、もしかしてここ..........


「崖か?」


なんかサスペンスな音楽が流れそうな場所だな。ガラス割れそう。


そう思いながらさらによく見てみると、

そこには...........


「ん?ありゃ何だ?」


なんかあった。ポツンと何かが立っていた。だが遠すぎて何なのかは分からん。近くまで行ってみるか。


俺は進む。

そうしなければならないような気がした。

そして、その場所には、

「これ、柄か?」


細く、何かの布でぐるぐる巻きにされた棒が刺さっていた。だが下を良く見ると、これが棒じゃないことが分かる。


これ、剣だ。

刃がきれいな鋼色で、形は異様だ。所々刃がない部分がある。ただ、剣として成り立っているように見えた。


「これ、もしかして引き抜くの?」


ファンタジーもののテンプレなのだとしたら、たぶん引か抜かなければならない。

でもこれはちょっと、


「深すぎやしないか?」


ちょーっと深かった。

非力な俺には引き抜けないかも。

........................


「何を恐れることがある時亜 迅!

元ハンドボール部だろう?そのとき鍛えた腕力ぅ!ここで見せなきゃ意味がないだろ!」


そう。中学校時代、俺はハンドボール部に所属していた。そのとき鍛えた腕力を今発揮するべきだ。


俺は覚悟を決めた。

そして、深く突き刺さったその剣をつかんで

精一杯..........


「およ?」


引き抜こうとしたけど案外あっさりとその剣は地面から引き抜けてしまった。


「え?あっさり抜けた............ハリボテ? 」


何か、拍子抜けだな。

こんな大層なことしてまでこんな崖みたい所にぶっ刺すかね?


............ ってか、もしかして、このハリボテみたいな剣でここから先生きていかなきゃならんの?


いや、無理無理無理!絶対死んだ。あーあ終わった~。絶対俺あの血を吸って覚醒した筋肉だるまゴリゴリ触手形状虫蛾型に殺されるんだ。


あーあ、呆気ねぇ。


そして諦めた俺はその場で仰向けに倒れようとした。どうせこの生い茂った草が衝撃を受け止めてくれるだろう。





............ ん?やけに地面に着くまで長いな?

もしかして、異世界あるあるの能力覚醒しちゃってたりして?





「ふぇ?」





あれ?地面無ぇんだけど?



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