第7話

–あれから10年。現在私は26歳、人妻。


夫は、恭介じゃない。


恭介とは、別れた。お互い嫌いになったわけじゃない。浮気をしたわけじゃない。でも、私から振った。理由は、恭介には「恭介は何も悪くない。私が悪いの。好きな人ができたの。」と言った。でも、本当は違う。


宮田さんは、私の実の父だった。


私の父は、私が幼稚園の頃から単身赴任で、一緒に暮らした記憶がない。家にも父の写真はなかった。連絡先も知らない。そのため私は、父の顔も声も全く知らなかった。しかし母と父は離婚しているわけではなかったので私に父の存在はない、というわけではなかった。私の苗字、【原田】も父の姓だ。ではなぜ父はあの時【宮田】と名乗り、ましてや私の彼氏の母、みゆきさんとそんなことになったのか。



時は戻ってあの頃−



恭介が一人暮らしになると聞いたあの日の夜、家に帰ると母がリビングで待っていた。

「おかえり。ちょっとここ座って。」

「?何、どうしたの、今日ごはんは、、」

「いいから。大事な話があるの。」


そこで私は、知った。

父とみゆきさんは元々地元が同じで昔付き合っていたこと。

当時高校生だったみゆきさんを妊娠させたのは当時大学生だった父だったこと。

その時の子供、つまり恭介は父の実子だということ。

しかし父はみゆきさんのご両親に結婚を許してもらえずなくなく別れたこと。

その後母と出会い、結婚と同時に私が生まれるも、みゆきさんのことが忘れられずみゆきさんと未だに頻繁に会っていたこと。

みゆきさんのご両親に二度と近づくなと言われていた為、会う時はいつも【宮田】という偽名を使っていたこと。

母は父に女の影があることは気付いていながらも気づかないフリをしてきたこと。

しかし今回みゆきさんが2人目を妊娠したことで、父は母へみゆきさんについて全てを打ち明け「今度こそ彼女をそばで支えたい」とついに離婚を申し出てきたこと。


母は、泣いていた。

いないも同然のこの形の家族でもなお、父と繋がっていたかったらしい。ただ父の意志は固く、誰も知らない海外でみゆきさんといちからやり直したいとのことだった。


ちなみに私は、母に彼氏の名前はもちろん、彼氏の母の名前が「みゆきさん」とは伝えたことがない。つまり、母はまさかその不倫相手の子供と自分の子供が付き合っているなんて想像もしていないだろうけど、私はこの時衝撃を受けていた。


私と、恭介は、兄妹。


私と、恭介は、兄妹。


頭がまっしろになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る