あの日、

@anomi

第1話

「なんか、つまんないな。」

洗い物の3分の2を洗い終わったところで、ふと口から出た言葉だった。

「わーついに!」「おめでとう〜!!」

いまだに久しぶりに会う友人らからお祝いの言葉をもらっている新婚3ヶ月目。周りからみたら私は多分とっても、しあわせ。実際に幸せだと思う。夫との仲も良い。義理家族との関係も悪くない。仕事も適度にしている。不満なことなんて何もない。でもなぜか最近、ふいに物足りない気持ちになる。


 私は結婚する前までずっと接客業をしていた。販売の仕事だ。しかし、世の中にはお金を払わずに商品を手に入れようとする人がいる。そう、万引き。私は洋服の販売をしていた時に、店長から言われたことがある。

「試着室、何点持って入るか必ず確認して。着たまま万引きする人がいるから。出てくるまで目を離さないでね。」

えー。すごい、なるほどな。その発想がなかった私は純粋に驚いた。でももっと驚いたのは、主婦の万引きが急増している、ということ。

「え、主婦さんが?」

「そう、お金は持ってるからほんとは買えるのにスリルを味わいたくてやる人がいるらしいよ。」

え、スリル?ええ?私には理解できなかった。スリル、、、かあ。スリルで犯罪?いやー、こわいなあ世の中、、。

 そう思ったのをふいに思い出した。

いやいやいや、私はそんな事しないけど。別にスリルを求めているわけじゃないし!

誰もいない家の中で、私は誰かに弁解するように慌てて洗い物を終わらせた。

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