第5話

 目を覚ますと私は、高校生になっていた。

 後ろの席には彼女が座っていた。お腹は膨らんでいない。


「竜胆。授業よ。起きて」


 最初は夢だと思った。けれど、痛みや彼女の温もりがあまりにも生々しくて、日々を過ごすうちにこれが現実なのだと察した。そして、今までの出来事はきっと悪い夢だったのだろうと思った。

 二年の春。夢と同じく、私達は恋人同士となった。そして大学に入る前に破局した。

 夢と同じく私は荒れて、二十五歳になる年に彼女と再会した。彼女のお腹は膨らんでいた。


「竜胆、私ね——」


 聞きたくなくて、彼女の唇を奪った。抵抗はされなかった。


「……どうして抵抗しないの。結婚したんでしょ。男と。子供もいるんでしょ」


「……夫は、私のことを愛してない」


「……じゃあ、別れて私のところに来て。私は一鶴ちゃんが好き。好きよ。ずっと。出会った時からずっと」


「……ごめん。出来ない」


 呟いて、彼女はお腹をさすった。


「……分かった。もう良い」


「竜胆……ごめん」


 これもきっと悪い夢。そう。悪い夢だ。そう言い聞かせて、首を吊った。迷いはなかった。何故なら、彼女が私のものにならない世界で生きる意味なんてないから。




 目が覚めると、私はまた高校生になっていた。後ろの席には彼女が居た。歪に膨らんでいたお腹も元に戻っている。

 私は一つの仮説を立てた。同じ時間を繰り返しているのではないかと。

 私の仮説通り、現実は夢を再現するように同じ道を辿っていく。私と彼女は高二で付き合い、大学入学前に別れて、二十五歳で再会する。そして私はまた首を吊る。

 すると、また高校一年の春に戻る。それを確信した私は何度も死に戻りを繰り返した。彼女と別れてしまわないように。

 だけど、何度繰り返したって彼女は私から去ってしまう。考えた末に私は、彼女とは付き合わずに、彼女が結婚する前に彼女の結婚相手を奪うことにした。


 男の名前は立花光一。同い年の、人の良さそうな男だった。

 一鶴ちゃんに彼と付き合ったことを報告すると、彼女は複雑そうにおめでとうと笑った。


「なにその反応。妬いてるの?」


 彼女は答えずに俯いてしまう。別れ話を切り出すのは、いつだって彼女の方だった。なのに私が別の人と付き合えば泣きそうな顔をする。自分だって、男と結婚したくせに。


「……一鶴ちゃんが好きって言ってくれるなら、私、彼と別れる」


「……なにそれ。その人のこと本気じゃなかったってこと?」


「それはこっちの台詞だよ。そんな顔するなら、なんで私を捨ててあいつと結婚したの!?」


「何を言ってるの……?」


 私は彼女に、何度も同じ時間をループしていることを話した。当然、彼女は信じなかった。証明することも出来なかった。

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