第4話

 一鶴ちゃんと出会ったのは小学生の頃。東京から来た転校生の美少女。それが彼女の第一印象。

 私は彼女に一目惚れをした。クラスメイト達に囲まれていない隙を狙って、勇気を出して声をかけた。

 彼女は快く受け入れてくれた。


「よろしくね。藤井さん」


「あ、え、えっと、竜胆で良いよ」


「じゃあ、竜胆。私のことも一鶴って呼んで」


「うん。一鶴ちゃん」


 一鶴ちゃんは人気者だった。男子にも女子にも。けれど、それは最初だけだった。

 美人で、運動神経もよくて、勉強も出来た彼女は憧れの的にもなったが、同時に嫉妬の的になった。

 ある日、彼女の教科書が無くなった。それはすぐに見つかったが、その日から彼女はよく物を無くすようになった。彼女に嫉妬したクラスの女子の一人が彼女をいじめ始めたのだ。

 悪意は連鎖し、彼女は孤立するようになった。それを男子達が慰めるようになり、いじめはさらにエスカレートした。

 私は意地でもいじめに加担しなかった。そのことで私も孤立していったが、彼女と一緒なら平気だった。

 いや、むしろ、彼女へのいじめは私にとって好都合だった。私だけが、彼女の味方でいられることに優越感を覚えるようになっていた。そんな醜い自分に気づいた時は自己嫌悪したが、それ以上に彼女に『いつも味方になってくれてありがとう』と言われることが堪らなく気持ちよかった。

 高校二年の春。私は彼女に告白をした。彼女は戸惑いながらも受け入れてくれて、私と彼女は恋人同士になった。幸せだった。だけど、その幸せは長くは続かなかった。


 高校を卒業すると、私達は別々の学校に進学した。


「私が居なくて大丈夫? 一鶴ちゃん」


「大丈夫よ。今までありがとう」


「やだ。別れるみたいな言い方しないでよ」


「……竜胆。私達、別れよう」


「え……」


 その後はなにを話したかよく覚えていない。気付いたら彼女は居なくなっていて、電話も通じなくなっていた。




 彼女を忘れるために、私は色んな人と恋愛をした。けれど、駄目だった。歴代の彼女達に言わせると、私は重い女らしい。彼女からはそんなこと一度も言われたことは無かったけれど、彼女もそう思っていたのだろうか。なんて、確かめようがないことを考えていると、彼女と偶然再会した。


「……久しぶり。元気だった?」


「……うん」


 再会した彼女の左手薬指には指輪が輝いており、腕や脚は細いのにお腹だけが異様に膨らんでいた。


「竜胆、私ね——「言わないで」……うん」


 聞きたくなかった。彼女が結婚したなんて。信じたくなかった。妊娠したなんて。

 現実から目を背けたくて、その日のうちに首を吊った。

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