第14話 前例無しの改変 Ⅵ

 そんな妹の様子には気づかず、優斗は坂井に聞いた。


「でもさ、何でそんなに基礎時代が大事なの?」


「それはな……。川野、答えろ」


「えっ?」


 突然のふりに紗奈は戸惑う。坂井はどうやら、紗奈を試しているつもりらしかった。


「それは……って、言っちゃっていいんでしょうか?」


 答えようとして、紗奈は優斗とさやかを見る。


「優斗たちには分からないようにぼかせば良いさ」


「……文明レベルが適度に発達しているから」


 歴史の教科書通りの答えを言う。すると坂井は少しつまらなさそうに、


「そこは分かってんだな」


 と言った。


「そこは……って、一般常識ですよ。知らない人なんて居ません」


「ねえ、それ、どう言う意味?」


 優斗が坂井に説明を求めるが、坂井は答えなかった。基礎時代の由来は、優斗たちの先の未来に大きく関わる為、さすがに包み隠さず話す訳にはいかないのだ。


「ああ、それで……川野は何をしに来たんだ?」


 坂井が思い出した様に聞くと、優斗は残念そうに離れる。


「えーっと……別に、優斗君たちの様子を見て来てって頼まれただけです」


 厳密には、「坂井が暴走してないか」だったが、まさかそれは言えまい。

 だがさやかの反応を見るに、少なからず暴走……していたのかもしれなかった。


「何の問題も無い。上手くやってるよな?」


 坂井の言葉に、紗奈はちらっとさやかを見る。彼女は首を振っていた。


「……私、一ノ瀬さんか川野さんが良い」


 その言葉に、紗奈は今までさやかたちへ気を配る余裕が無かった事を反省する。


「ごめんね。私も一ノ瀬さんも忙しくて……」


「何だよ。さやかはこの基礎課が不満だって言うのか?」


「……」


 紗奈は慌てて坂井とさやかの間に入り、


「そう言う訳じゃ無いと思いますよ。ただ……分かりませんか?」


「分かんねーな」


 紗奈は思わず溜息をつく。すると坂井は、不機嫌ながらも話を変えた。


「ああ、そんな事より、事件の方はどうなった? 犯人はまだ逃げてんのか……と、後は改変は起きてるのか。どうも不自然なくらいに情報が入って来ないんだが」


「犯人はまだ捕まって無いみたいですね。改変の方は……」


 そこで紗奈は口をつぐんだ。

 片岡の話では、改変についての細かい情報は、修正部と対策部以外にはまだ伏せられているらしかったからだ。


「改変は……私も分かりません」


「えっ? 川野って修正部だろ?」


「元広報課です!」


 元の職場を言い逃れに使う。すると坂井は、首を傾げつつも追及をやめてくれた。


「にしてもなぁ、まだ犯人捕まんないのか。いつまで俺は優斗たちを預かっておけばいいんだ? ……どうやらさやかには嫌われてる様なんだけど」


「……そうですね」


 紗奈は思案する。

 確かに、優斗たちの行くあては考えなければいけない。FTTに2人を泊める場所は無いし、このまま2人を放っておく訳にも行かない。

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