第8話 過去2-1
中山が紗奈を連れて行った先は、修正部フロアの一階上にある書庫だった。
コンピューターが便利な時代だが、その弊害として、ハッキングなどのデジタル犯罪者の腕も上がっている。どれだけ対策してもその危険性はゼロにできない事から、現在では機密情報の管理は逆にアナログで行われるようになった。
犯罪の危険などと密接に関わる時間警察だから、アナログ管理の情報は多い。
中山は並ぶ書庫の中の一部屋を開けた。
「和弥居るー? 紗奈ちゃん助っ人に連れて来たけど」
部屋の奥に向かって叫ぶと、明るいオレンジ色のTシャツを着た社員、
「引き抜き屋の被害者! 久しぶりじゃん」
和弥は、そんな意味不明な言葉を言って、紗奈に駆け寄って来た。
時間警察には制服が無く、基本的に私服可だ。服装指定はかなり緩いが、それでも和弥のTシャツは会社員らしく無いほど派手だった。
紗奈は何が何だかわからずにただ戸惑う。
しかし、和弥はお構いなしに喋る。
「中山部長、そろそろ清水課長にキレられません? 大丈夫ですか?」
「あなたが手伝いがなきゃ終わらないって言ったから連れて来たんじゃない。結論言うと、全く大丈夫じゃ無いわ。今度こそ殺されるかも」
さらりと言う中山に紗奈は慌てる。
「ごめんなさい……」
「あっ、違うわよ? あなたのせいじゃ無くて。私、昔から清水には嫌われてるのよね。何でかしら」
ゆったりした口調で中山が言うと、すかさず和弥が、
「それは中山さんが直ぐ、広報課に雑務押し付けるからっすよ」
と言った。紗奈が首を傾げると、和弥は続けて説明してくれる。
「知らない? 中山部長、『引き抜き屋』って呼ばれてんだよ。自分が忙しくなると多部署から人員引き抜いて手伝わせちゃうから。
『押し付け屋』とも言うけど、今回の……紗奈ちゃん? は、引き抜き屋の被害者だねー」
彼が最初に言った言葉の意味は、そう言うことらしかった。
入社したばかりの紗奈は知らないが、中山は押し付け対象に広報課を選ぶ事が多い。
単純にそこまで忙しくない部署だから、と言うのもあるが、この課の社員が持つ能力が役に立つせいもあった。
修正部には時空学の優秀な人員がいるが、その多くが極端な理系。その為か、文章資料の作成など、文系仕事を嫌う人が多いのだ。
その点、広報課は正反対なので、そう言った雑務を依頼するには好都合なのである。
中山が、さて、と話し出す。
「それで、紗奈ちゃんにはこの書架の整理をして欲しいのよ。和弥が倒したせいで、順番もファイルの中身も訳分からないことになってるから」
中山が指す書架の前には、ファイルやプリントが散らばっている。
紗奈はそれを見て、こう言うのなら得意だ、と思った。
「分かりました」
「じゃあお願いします。私は修正部に戻らないといけないから、和弥と一緒にやって。あっ、嫌だったらあれだけど」
「ええっ、俺と一緒じゃ嫌とかってことすか? そりゃないよねー? ……いや、あるか」
和弥がそんな事を言うので、紗奈は反応に困る。
「だ、大丈夫です」
小さく言うと、和弥はにっこり笑った。
「良かった〜! よろしくね、紗奈ちゃん」
「よろしくお願いします」
紗奈も軽く頭を下げた。
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