第2話 時間警察修正部Ⅳ

 紗奈が修正部に戻ると、和弥が残りの仕事を片付けていた。改変修正後は、そのフェードバックをもとに最終確認を取る。72時間に追われるプレッシャーが切れたからの地道な作業は、修正部にとってかなり辛いものだった。


 和弥は、「あーもうめんどいなー全く……」と愚痴を溢しながらPCを叩いている。そんな先輩に、紗奈は慌てて中山の伝言を伝えた。


「和弥先輩、中山さんが、後はいいから帰りなさいって言ってましたよ」


 紗奈が伝えると、和弥はガタッと音を立てて勢いよく立ち上がった。


「えっ、マジ? 何それ、中山部長神かよ!? 全力感謝しなきゃじゃん!」


 大声で言う和弥は、傍目にはさほど疲れているように見えない。しかし彼には、ある程度疲労が蓄積されると、異常なまでにハイテンションになるという性質があった。

 普段からかなり騒がしいので判断が難しいが、四月からの六ヶ月間一番身近な先輩として見てきた紗奈は、この状態は危険だと思った。


「だから和弥先輩、パソコン落として帰りましょう。一ノ瀬さん起こしちゃいますし」


 紗奈は、慌てて小声で落ち着かせようとする。


「ごめんごめん、じゃ、俺、帰るね!」


「えっ? ちょっ、ちょっと待って下さい!この鞄置いてっていいんですか?」


「あっ駄目。紗奈ちゃん投げてー」


「投げませんよ。パソコン入ってるんでしょう?」


 紗奈は慌てて和弥に走り寄って、鞄を手渡した。

 和弥が去ると、修正部は一気に静かになる。心なしか、少し暗くなったような気もするほどだった。

 この騒がしさの中でも一切動かない律希が、紗奈は心配だった。

 少し手に触れてみると、自分より温かい。


 ほっとしつつも、秋が深まりつつある最近は、少し寒い。律希が風邪を引かないか心配で、紗奈は、椅子の背に掛かっている、ジャケットを彼の背中に掛けた。

 電気を1列だけ残して消し、


「お疲れ様です」


 と呟いて修正部を出る。


 修正部の72時間が、今回も無事に終わった。

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