第12話

「…………」


エリシアば呆然とした目でカヤダの手のひらを見つめていた。

だが、それも少しだけのことだった。

エリシアが喋ろうと口を開き、急に何かを振り払うように首を振ると


「煤」


……一言だけ呟いた。


「…………は?」

「後ちりと、ほこりと、血と──」

「ちょまっ、おい!!」


エリシアに様々な種類のゴミ達を羅列され、カヤダは慌てて静止に入る。

よほど慌てていたのか、相当声が大きくなっていることに気付かず、様々な黒い影がおどろいたように目を開き、路地裏を覗き込んでいる姿があった。

カヤダがそのことに気付き、すぐさま声量を下げる。


「……本当か?」

「嘘いう意味ない」

「……ま、そうだよな……」


カヤダはゆっくりと壁に己の体重をかけると

煙草を取り出し、火をつけた。

路地裏に煙草の煙が登っていく。

その間に様々な事が頭の中を過ぎていく。


「……なあ」

「……?」


エリシアが首を傾げる。

カヤダは少し、躊躇うように息を溜め、


「……いや、何でもない」


逃げの言葉を打った。

エリシアは少し怪しむように目を細める。


「…………」


だが、不思議に思いつつも、問い詰めるようなことはしなかった。


「これから、どうするの?」

「もうちょっと違う店に寄ろうと思ってたんだが、今日はこれぐらいにしておく。

その後にやる事もあるしな」

「……何するの?」

「色々とやるんだよ」

「色々ってな──」

「ほら、帰るぞ」

「…………」


質問をのらりくらりと躱され、誤魔化されたエリシアはすこし不満げにカヤダの後をついて行く。

カヤダはその様子に気づいていながらも、敢えて声をかけることはしなかった。


エリシアとカヤダが街を出る。

複数の黒い影が門の柱や提灯にに触れ、消えて行く中、二人は門の中央から溶けるように居なくなっていった。







その様子を、二つの眼が覗いていた。

「……!」

それは、とても楽しげな表情をしていた。



◆◇◆

そろそろ章が変わります

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