第7話

「……これ、なに?」

「……動く箱、だな」


へー。

この扉の奥に箱があるのだろうかと考えつつエリシアはカヤダの後をとてとて歩く。

だが、扉が開いても、行き止まりの通路があるだけだった。

エリシアは、この扉の奥に、不気味な気配を感じた。


「ほら、乗れ」

「…………」


恐る恐る足を踏み入れる。

瞬間、扉は閉まり、おかしな感覚と共に部屋が動き始める。

───扉が開く頃には、目の前の景色は変わっていた。


「……まほう?」

「魔法じゃねぇよ。

魔法ならこれより凄いものができるだろ」


絶対こっちの方が凄い、とエリシアは思いつつ、先ほどと違う光景の通路を歩く。


「こっちだ」

カヤダが入った部屋の中は、閑散としていた

その割に、様々なものが置かれていた。

先ほど見た光を降らせるもの。

さっきカヤダが取り外した機械。

乱暴に捨てられた。何かの包み。

そして、伏せられた額縁。


「……これ、見たことある」

「ん?」


そう言ってエリシアが指差したのは、白い字で『Kanon』と書かれたカメラだった。


「……これか?」

エリシアは頷く。


「……別に、そこまで珍しい物じゃないが……いや、お前、これをどこで見た?」

「もといた……セカイ」

「何で呼ばれてたか覚えてないか?」

「……『カメラ』って言ってた。あと、『イカイブツ』って」

「イカイブツ…異界物か」


頭を抱えるカヤダに既視感を覚えつつ、辺りを見回す。

先ほど見た包みの中に、まだ何か入っているものがあった。


「あれ、開けてみてもいい?」

「別に良いぞ」


遠慮なく中を開く。

少しずつ、慎重に。

白と黒の何かが顔を覗かせる。

……とても良い匂いがした。



気付いた時には、目の前の白と黒は無く、エリシアの腹の中に溜まっていた。


「……おいし、かった……」

「ん?どうし……っちょっそれ食っ───」


エリシアが腹の中に入れたのは、カヤダが溜めた食糧の一つだった。

別にそのことには何も思わないが、おにぎりを食べておきたかったとも思わ……ないが、

カヤダは何か言おうとした。

言葉を途切らせたのには理由があった。


「……お前、なんで泣いてんだよ」

「…………?」


エリシアが『訳がわからない』と言うようにこてり、と首を傾げる。

その間にも、右の頬から一筋、零れていた。


「……なんでもねぇ。そこのは好きに食って良いから、食べたい時に食え」

「……いいの?」

「別に良いさ」

「……ありがとう」


そう言い、エリシアは先ほどの山の中から食糧を探し───頭からその山に突っ込んだ。


「おい、おい!」

急ぎその山からエリシアを引き抜いたカヤダは、


…………すぅ。


心から安堵した。

ただ、眠っているだけだったからだ。


「驚かせんなよ……ま、しゃーないか」

わけのわからない所に来て、ただでさえ神経をすり減らすのに、知らない年上の奴と関わることになったのだから。


「……おやすみ」

カヤダは自分の布団をエリシアにかけると、そう呟いた。

そして、暗闇の中に消えた。



◆◇◆

今まで休みすぎたので二連の更新

(今後は、、。)

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