第5話

男の手から煙草が落ちる。


「……は?」


その言葉は、男にとって予想外なものだった。


「……だめ?」

「……ッ!」


男は頭を掻きむしる。

彼女のその言い方は、姿は、立ち振る舞いは彼の昔の傷を思い出させるには充分だった。


「だからって、今来るのかよ……!」

「……?」

「……あぁ、関係ねぇよ」


不思議そうにこちらを見つめる少女に言葉をかけ、先ほどの質問の返事を考える。

もっとも、答えは殆ど決まっていたが。


「……別に、構わねぇよ。

だが、何も尋ねないのなら俺は何も喋らない。喋るのが苦手だからそうしてる。

それでも良いな ──」

「ほんとに……‼︎」


エリシアは椅子ごと大きく近づく。

その勢いから逃げるように、男は少し椅子を引いた。

エリシアはそのことに気づかず、ただ命がまだ続くことに安堵していた。


「……でたな、まず、何か知りたいことはあるか?」

「………………」


エリシアは究極の選択をするかの如く悩んでいた。

「別に、そこまで気負わなくていい。

この後も同じような機会はあるだろうしな」


悩んだ末、エリシアは顔を上げると


「なまえ、教えて」

男を指差して、そう言った。


「……は?」

「いま、なんて呼べばいいかわからない」

「……初っ端からそんなこと聞くのかよ」

「大事」

「……まあ、確かにな」

「なまえ、なに?」

「……茅田佑だ」

「カヤダ、ユウ」

「茅田だけで良い」

……カヤダ


エリシアは心の中で復唱する。

恩人の名前を忘れないように。

そんな彼女を珍しい物を見るような目つきで眺めつつ、


「そういえば、お前の名前は何なんだ?」

「エリシア」


男──カヤダの動きが一瞬止まる。


「……『リシア』って呼んでもいいか?」

「別に何でもいい」

「…………ちょっと外の空気を吸ってくる」


そう言って、カヤダは地下室から出ていく。

扉が閉まる音が聞こえ──エリシアは緊張の糸を抜くように息を吐いた。


「……疲れた」

一歩間違えたら殺されるかもしれない。

そう思っていたが、そこまでの事はされなさそうだと感じた。

精神的に疲れた体を休めつつ、

「……なんで、リシアって呼ぶんだろ……?」










「何で、あいつの影が

 ここまで脳裏にチラつくんだよ……!」



◆◇◆

伏線をたくさん入れられたらいいなー

って思ってます。

(回収できたらもっといい……)

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