第3話

「なあ、早く出てきてくれないか?」


男だと思われる低い声が、辺りに響き渡る。

相手はここに、自分がいる事を確実にわかって言っている、とエリシアは感じ取った。

声は不機嫌そうでは無いが、機嫌が良さそうなわけでもない。

ただ、淡々と告げているようにしか聞こえなかった。


「……そこにいるのはわかってるんだよ。

何か答えてくれないか?」

「……からだ、動かない……」

「ん?」


片側の空気が動く。

空気から伝わる相手の気配が大きくなった。


───突如、頭上から光が落ちてきた。

恐ろしい気配と共に。


思わず目を閉じる。

だが、いくら待っても、思っていたような衝撃はやってこなかった。


「何をやっているんだ?

 ほら、早く目を開けろ」


と言う声が聞こえる。

恐る恐る目を開けると、


「……?」


太陽のように明るい灯りが頭の上を照らしている。

そこには、殺意も害意も感じられなかった。

エリシアの反応に、何故か不思議そうな顔をする男と目があった。

エリシアは男の眼と、髪色を注視していた。


鳶色の目と、黒色の髪。

その姿に、エリシアは軽い既視感を覚えた。

動かないエリシアを見て、


「ん?電球を見るのは初めてか。

……それほど文明の発展が遅れている奴は久しぶりだな」

「?」


男はわけのわからない言葉を使う。


「あー、いい。こっちの話だ。

とりあえず、ここだと危険だから少しついてきてくれないか?」


そう言い、男はエリシアへ手を差し伸べる。

エリシアに、ついていかないという選択肢はなかった。

最悪、ついて行った後に殺されるとしても、仕方のないことだと割り切ろうと思った。

だが、


「…………」

「あ、すまんすまん。体が動かないのか。

 ちょっとこれを飲んでくれ」


男はエリシアに近づくと、エリシアの口の中になにかを流し込んだ。

温かく、甘いなにかを感じ取り───


「……からだ、動く……」

「それで動けるなら、自分でついてきてくれ」


男は既に歩き出している。

男を見失いようにしつつ、エリシアは急いで男のあとを追いかけて行った。

───男が背負っているリュックに掛けられた、謎の黒い筒を眼で追いながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る