第7話 星の因縁
明くる日の早朝、王都内の建物が煌びやかな反射を見せる。
だが隠し切れない邪悪な気配がミレーを速攻で目覚めさせた。
「この、気配……」
星雲の戦乙女としての役割を刻まれた魂が警鐘を鳴らす。
すぐに飛び起きて、教会の外へと出た。
街は大騒ぎ、爆発で悲鳴が舞う
兵士や騎士たちも動き始めており、慌ただしく一点の方向へと駆けていくのが見えた。
黒竜とジークリンデの到来だ。
「黒竜様、いくらなんでも真っ正面からこうして入るのは……」
「かたいこと言わない。見なさいこの街並みを。実に壊し甲斐があるというものだ」
「ですが、ここには戦乙女が」
警戒心を剥き出しにして周囲に睨みを利かせるジークリンデの横で、やれやれと大袈裟に肩をすくめながら首を横に振る黒竜。
まるで自身の存在を天地に知らしめるかのように往来を闊歩(かっぽ)しながら、怯える市民の視線の中で陽気に振る舞う。
まだ醸し出すオーラの抑え方というものができないゆえか、人の集う場所ではこのように大いに目立ってしまうのだ。
ましてや建物のいくつかを破壊したので、すべてが恐怖に包まれている。
「ハハハ、ワタシたちのことを歓迎してくれている」
「ここの兵のようですね。黒竜様、ここは私が……」
「ん~、まぁいいだろう。雑魚に用はない。リンデ君、君の実力を見せてくれ」
「はっ、御意に」
ジークリンデは早速一団に躍り出た。
上空にフードを投げ飛ばしてその身をさらす。
白日にさらしたレオタード風の軽装甲。
身軽さを主観においたその出で立ちから、彼女の褐色肌が煌びやかに照っている。
小太刀二刀流。
刀身の強度と斬れ味は凄まじく、甲冑ごとその肉体に桁違いの斬撃を味わわせる。
疾風迅雷の太刀捌き。
たったひとりに翻弄されて、一団は瞬く間に死んでいく。
「黒竜様、一団は退いていくようです」
「うん、素晴らしい動きだね。リンデ君は頼りになるなぁ。アハハハハハハハハ!」
「ありがとうございます……あ、黒竜様」
「どうやらお出ましのようだ」
前方から歩いてきた星雲の戦乙女ミレー。
兵士や騎士たちが調子よく歓声を上げる。
「アナタ方ですね。王都の平穏を脅かす暗雲は」
「そういう君は星雲の戦乙女のようだね。なるほど、これまでの雑魚とは違う」
「……ッ! この醜悪な気配。ガルドロフ将軍がいなくなったと聞いておりますがもしや」
「彼の献身には感謝しきれないよ。君がここにいると言ってくれだけでなく、ワタシに魂を捧げてくれたんだからねぇ!」
「なぜ!? 一体アナタは何者なのです!?」
「おやおや、星雲の戦乙女ならワタシのことなんて一発でわかりそうなものでは?」
「────?」
「……マジかぁ」
黒竜は大袈裟な動作で片手を額に当ててみせる。
それが癪に障ったのか、ミレーの表情は一気にきつくなった。
「そんな怖い顔をしないでおくれよ。これでもワタシは君たち星雲の戦乙女にとって、因縁の相手でもあるんだよ?」
「因縁の相手?」
「100年前の戦いで破れた災厄と破壊の権化。────黒竜フェブリス」
大仰に両腕を広げて見せ高らかに笑って見せた。
するとミレーの顔から一気に血の気が引く。
「バカな……ありえません。黒竜はあのお方によって……」
「いや、ありえるんだなこれが。てか、そろそろ君くらいには認めてほしいね。でないとヘコんじゃうよ」
「嘘です! 騙されません! アナタは黒竜を名乗るただの狂人です。己の力に溺れ、かつての災厄をさも自分の行いだと笑っている人間に過ぎません!!」
「ひどい言いようだなぁ。皆してワタシを否定して。まぁいきなりだし信じるわけないか。……じゃあ実力を見せてあげないとね」
「……実力」
彼女の表情の変化をジークリンデは見逃さなかった。
前へ出て戦おうとするも、黒竜に制される。
「戦乙女の力、是非見たい」
「承知いたしました」
今度は鎧をまとった王が供を引き連れて出てきた。
「戦乙女よ! これは国の一大事ぞ! 役に立て! すぐに立て! その武勇を知らしめてみせよ!!」
「国王陛下……わかりました。この男に対し、戦乙女としての力を振るいましょう」
ミレーによぎるもしもの未来。
ここで成果をあげれば国王には勿論、民にも認めてもらえる。
皆に自分を認めてもらえるという普遍的欲求が、彼が黒竜であるか否かの疑心を拭いさってくれた。
「さぁ参ります。賊よ、お覚悟!」
「何事もシンプルなのがいい。────さぁかかってきなさい」
物腰柔らかな口調とは裏腹に、その気配には殺意があふれていた。
黒竜にも、ミレーにも。
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