第7話 推理は再び間違っていたうえにボロボロに斬り倒されました

 決着は直ぐにつくことになった。


「ほぉおおりゃあああっさー!!」


 デュラハンの鎧をも砕く吾輩の拳が唸った!!

 全力の掛け声を添えて!!

 

「ありゃっ?」


 しかし、騎士団長くんはあっさりと避けた。

 そして剣が「シィッ!!!」振るわれ、吾輩は斬り伏せられた。肉が裂ける鈍い音と、魔法の力で体内を巡る冷たい血が「プシュー!!」吹き出る滑稽な音。


「ぐわっー!!」


 吾輩は悲鳴を上げて倒れる。あっさり騎士団長くんに倒されてしまったのでした!

 なんと情けない。でもしょうがない。吾輩はポンコツ吸血鬼に過ぎないのさ……

 あ、ちょっと待って? 思ったより傷が深い。血がめちゃめちゃ流れてる!!


「吾輩死んじゃう!!」


「吸血鬼がその程度で滅びるなら、苦労はない」


 騎士団長くんは吾輩の叫びを切って捨てた。俺の剣が銀でできてたらなぁとかなんとか、物騒なことをぼやいているのは気にしないことにする。銀の武器は洒落にならないからね。本当に滅んじゃうからね。31人目の犠牲者の出来上がりだ。


 それにしても、まぁ。

 いくら吾輩がポンコツとは言え、一方的にやられたものだ。彼には傷一つなかった。


「強さは良く分かったよ!」


「今のあんたに勝ってもなぁ」


「騎士団長を名乗るのは飾りじゃないね!! 本当に強い!!」


「騎士団長と俺のことを呼ぶが…… それは名誉称号だし、騎士団長を名乗れるのは師団長殿だけだぜ。やめてくれよ。平民でも大学に通える時代なんだぜ?」


 へー、時の流れは恐ろしいねぇ。昔は騎士団長くらい、何人もいたものだが。

 吾輩は流行に疎い。何しろ長い時を生きているからね!


「すべて近衛に任せれば良かったんだ。暗殺事件の序盤こそヘマをしたが…… 俺たちなら! 俺達こそが陛下の剣にして盾なのだ!!」


 騎士団長くんは急に怒り始めた。


「陛下にお伝えしろ!! 陛下の奥の手にも私は勝って見せますとな!!! 近衛の存在意義は魔王様に尽くすことにある!! 他のことはどうでも良い!!」


 そう叫びながら、彼は天幕に戻っていった。

 ふむ。酔っているな? 酔っ払いは急に叫ぶものだ。


 えーと、奥の手?

 騎士団長くんは魔王様の奥の手に勝てるのか!

 凄いね! まあいいか。良くわからないし。


 天を仰いだまま考えていると、彼の部下が出てきて--そうだな、副官くんと呼ぼうか--吾輩に声を掛けてくる。副官くんの目は血走っていた。吾輩を睨むどころの話じゃない。怖い!


「連隊長殿のご配慮を貴様が理解できたか大変怪しく思えたので、私から補足する」


「ど、どうぞ!」


「一連の暗殺事件の捜査から外されたことを納得できていない者は多い。そして、その後任がかの空っぽ卿と分かった今……」


「分かった今?」


「もしまたここに来るようなことがあれば、貴様が灰にならない保証はないぞ。私が今、そうしたいくらいだ」


「じゃあなんでそうしないの!?」


「……」


 副官くんは急に黙ってしまった。どうしてだろう?

 まさか吾輩が怖いというのでもあるまいに。


「いいから続けて!」


「……いいか、連隊長殿がわざわざ自ら剣をお抜きになったのは、部下の暴発を避けるためだ。連隊長殿より血の気が多い者は我が連隊には事欠かないからな。いいか、二度と顔を見せるな」


 そう言って副官君は去っていく。

 はぁー、怖。


 相変わらず血を流し倒れ伏したまま、吾輩は辺りを見渡す。

 地面はえぐれまくっていた。すべて騎士団長くんの踏み込みによるものだった。


 彼が吾輩との運動のために元気いっぱい動いた結果、こうなったのだった。踏み込みが強ければ、当然速度も早い。斬撃も強力になる。流石は近衛騎士団。戦闘のプロフェッショナルだ。だから吾輩を簡単に倒せたし、血も止まらないというわけだ。自然体でも回復する筈の吸血鬼なのに……


 なるほどなるほど……

 吾輩は考え込む。少しだけね。答えはボロボロになるまでもなく分かっていたからね。


「なるほど……ね!」


 よく分かりました。

 騎士団長くんならびに彼の部下は犯人じゃないだろうな。


 確かに強いが、暗殺は向いてなさそうだ。

 こんなに激しく戦う連中が、大量のデュラハンにばれずに吸血鬼を殺せるわけがない。


 もっと静かに戦うこともできるだろうけれど、身体に染み付いた戦いの癖は消せるものではない。どうも、近衛騎士団の皆さんは血の気が多すぎるようだ。怖いねぇ……


 それに、彼らが魔王城から追い出されて休暇中、というのも真実だろう。駐屯地に全然人がいない。次席執事ちゃんの差し金と言っていたが、彼女は昔軍にいたから、そういうコネもあるんだろうね。おまけに、『デュラハンに紛れれば暗殺楽勝説』も成り立たないと来た。


 結論。どう考えても騎士団長くんおよび近衛騎士団は犯人ではない。


 ならば?

 そう。リストの三番目の人物だ。

 家庭教師くんだ。確か人狼ウェアウルフだ。


 人狼ってのは吸血鬼の天敵だ。彼らの牙と爪は、銀と同じ効果を発揮するのだ。吸血鬼を殺したいなら人狼を雇えというのが通り相場らしい。


 家庭教師くんが犯人で間違いあるまい!


「ふんっ!」


 気合とともに魔力を練り、吾輩は辺りに撒き散らされた血を回収する。立ち上がって身体を確認した。よしよし。傷もふさがっているね。服も…… ふんっ! これでよし。魔力で繊維に干渉しつなぎ直した。


 街に戻るなら、ボロ雑巾そのものの格好ってわけにはいかないからね!

 次、行ってみよう!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る