37 徳川准

 徳川准の疲労に関係なく、前方のオーク達は全滅した。

 小早川と成田がクロスボウを撃ちまくり、本田、力角、立花が激戦を制したのだ。

 だがこの戦いの代償は大きかった。

 クロスボウのボルトを使い切り……。

「平、が……」

 泣きじゃくる青藍からの報告を受け、准は絶句した。

 また仲間が欠けたのだ。

 さすがに皆の動揺は大きく、誰もが顔を見合わせている。

「……いくぞ」

 敵の気配を感じた准が呻いた。

 進むしか彼等に報いる方法はない。そう思った……そう信じたのだ。。

 馬と馬車は進む。森と森の間の轍もない道を、敵のど真ん中を。

 残り少なくなった仲間達は懸命に戦い、確実に敵を減らしていった。

 このまま一気に、と准は考えたが、やはりそんなに甘くはなかった。

 三年四組の皆は馬を止め、口を大きく開けて見あげた。

 巨大な体躯、一本角と一つ目……かつて彼等を壊滅状態にさせたサイクロプスが進む先に佇んでいた。

 数は二体。いつかよりはマシだ。

 だが……。

「みんな、戦闘用意だ」

 白夜が静かに口にする。

「石田、片倉、朝倉、小西、朧、魔法は?」

「……まだ集中力が回復していない……ごめん」

 代表して答えたのは石田宗親だ。

「判った……成田、小早川、弓の用意」

 白夜が軍馬から降りる。他の戦士達も、力角や明智も馬車から降りる。

「待ってくれ!」

 ふふふふ、と准は笑ってしまった。先程の決意はもう無い。

「……もう辞めよう。もう逃げよう、ここまでだ。そうだよっ! ここまででいいじゃないか! 僕等はよくやった、もういいんだ」

 必死の訴えに誰も振り返らなかった。

 仲間達は立ち向かう……巨大なサイクロプスに。

「矢放て!」

 成田と小早川がコンポジットボウから残った矢を討つ。それはサイクロプスの顔面に集中し、敵は痛みに足を踏みならした。

「行くぞっ!」

 戦士達が走り出す、密偵とモンクも。後にはもう何の攻撃手段がない魔法使いと聖職者が残された。

 徳川准が残された。

 白い世界の中、仲間達、友達が戦っていた。

 サイクロプスの脚を切りつけ、叩きつけ、顔に矢を放つ。

 そして成田の一射がサイクロプスの目玉を捉えた。一つしかない大きな目に深々と矢が刺さっている。 

「今だ! 力角!」

 力角拓也の渾身のウォーハンマーが、サイクロプスの膝を砕いた。

「ぐがぁぁぁ!」

 この世の物とは思えない悲鳴を上げ、一体のサイクロプスが地に膝を突いた。

 するりとその腰の上に立花が登る。

「木村の痛み、思い知れ!」

 立花の二つのグラディウスが、交差から滑るように広がりサイクロプスの喉に致命の一撃を加えた。

「がかぐぐぐ」サイクロプスは腐った赤ワインのような血を吹き出し、大地に沈む。

「やったあ! 立花マジイけてる~」

 らららがはしゃいでいた。観戦するしかない者達の緊張も微かに緩む。

 かつて手も足も出なかったサイクロプスを一体、ほぼ無傷で倒したのだ。ならば残る一体も不可能ではないはず。

 だが徳川准は辺りを見回し続けていた。

 ……どこか逃げるところはないか? みんなで隠れられる場所はないか? 

 准の勇気は既に粉々に折れていた。

 だがだからこそ見つけられた。

 森の木の、一際太いその陰に黒いローブの何者かがいる。

 何かぶつぶつ呟いているようだ。

 ……魔法!

 仲間達を見ていた准はその行為を悟った。

 視線を転じる。

 最後のサイクロプスと戦っている仲間達がいた。

「あぶない!」

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