第最終話 絶対服従幼稚園

その日、幼稚園から帰ると、タクミはすぐに、母親のもとに駆け寄り、ぎゅうっと抱き着いた。


「あら、どうしたの、タクミ。何かいいことでもあった?」

「…うん!あのね、お母さんに話したいことが、いっぱいあるの!」

「あらあら、そうなの。お母さん、タクミからいお話を聞くのが大好きなのよ。」

「うふふ、あのね、まずはね…。」

「待って待って、お菓子でも食べながら、ゆっくり聞かせてちょうだい。」





 タクミはその夜、久しぶりにすっきりとした表情で眠りについた。



「ふふふ…なんだか、笑ってるみたいな寝顔だな…。」

「ええ。あの子ったら、今日は帰って来るなり、ニコニコして幼稚園での様子を教えてくれたのよ。」

「ああ、俺も一緒にお風呂に入ってるときに聞いたよ。なんでも、前に言ってたお友だちと、一緒に遊べるようになったって。」

「うん、そうなの。…私ね、タクミがそのことを嬉しそうに教えてくれてるのを見てたら、なんだか感動しちゃって。あの子は、壁にぶつかっても、きちんと向き合って乗り越えていく力を持ってるんだなぁって。」

「そうだな…俺は『強く言い返せ』としか言えなかったから、自分の浅はかさを反省したよ。まさか、一緒に遊ぶなんて解決方法があったとは…ホント、子どもに教わることってたくさんあるんだな。」

「ふふふ、ホントにね。…私も、昨日の夕方、タクミが怒って大きな声を出した時は、びっくりしちゃったけど…。」

「ああ、キミが『今日は私が呼びにいかない方が良さそう』って言ってきた時は、俺も驚いたけど…もしかしたら、俺たちがああだこうだ言わなくても、タクミはこうやって成長していくのかもしれないな。」

「そうね…でも、それはそれでちょっと切ないわね。」

「あっはっは、確かにな。でもさ、きっとタクミにはタクミの世界があって、そこで色々な人とぶつかったり、励まされたり、背中を押されたりしながら、強くなっていくんだよ。」

「…だとしたら、あの子の力になってくれる人には、たくさん感謝しなきゃいけないわね。」

「ああ…さて、俺も今度からはタクミを見習って、自分の意見を押し付けすぎずに、相手の気持ちを聞いてみることにするよ。」

「うふふ、そうね。」



 息子の成長に感心しきりの両親の視線の先では、タクミが穏やかに寝息をたてていた。

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絶対服従幼稚園 第一話  夕日 空 @sorayuhi

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