第7話 絶対服従幼稚園

その日タクミは、夕食が出来上がるのも待たずに、ひとり布団に潜り込み、体をガタガタと震わせながら、いろいろなことを考えていた。


「(さっきのお母さんの反応…僕、お守りに祈ってないのに…祈って…ないよね…?)」


「(もし、お守りが効いたんだとしたら…僕、お母さんも『ゼッタイフクジュウ』させちゃったってことだよね…。)」


「(そんな…そんなこと…。)」


 いつの間にか、すっかりと日は落ち、寝室は真っ暗になっていた。


「タクミ…入るぞ?」


 ドアが開き、穏やかな声でそう呼びかけて来たのは、タクミの父親だった。


「…具合でも悪いのか?…その…ご飯、食べないか?」

「…。」

「寝ちゃったか?…もしお腹空いたら、起きておいでね。」

「…。」


 タクミは寝ていなかったが、いつもなら自分を呼びに来るはずの母親でなく、父親が来たことで、声が出ないほどに体が固まってしまっていた。


「(お母さんが来ないってことは…やっぱり、僕はさっきお母さんに…お守りで…。)」


 自分の母親を操ってしまった申し訳なさと恐怖心に苛まれながら、タクミは長い夜を過ごしていった。




そして翌朝。いつの間にか眠りに落ちていたタクミは、母親の明るい声で目を覚ました。


「タクミ、ほら、起きて。」

「…う…ん…お母さん…。」

「…さ、お風呂も入らなきゃだし、起きておいでね。お腹もすいたでしょ?」

「うん…。」


 母親は、何事もなかったかのように、いつも通り優しく微笑んでいた。タクミは、ポケットの中でくしゃくしゃになったお守りを取り出すと、一瞬何かを考えた後で、通園バッグの中にしまった。





「アハハハ!」

「ね、次はブランコやろうよ!」


 その日の午後、タクミたちのクラスは、時々訪れる公園に来ていた。


「…。」


 タクミは、何をして遊ぶでもなく、しきりにキョロキョロとあたりを見渡していた。そう、あの日この公園でお守りをくれた、あのおばあさんを探しているのだ。その手には、例のお守りが、ギュッと握られていた。


 しばらくして、そろそろ幼稚園に戻る時間が近づいてきた頃、ようやくあのおばあさんが姿を現した。


「おばあさん!」


 タクミは、おばあさんがベンチに腰掛けるのも待たずに、走って駆け寄る。


「あら、あなたはこの間の…その様子だと、お守りを返しに来たみたいねぇ…。」

「…うん。」

「よかったら、どうしてお守りを返そうと思ったのか、わけを教えてくれるかい…?」


 おばあさんの穏やかな問いかけに、タクミはポツリポツリと、これまでの出来事を話し始めた。

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