第4話 絶対服従幼稚園

「(そっか、そう言えば、昨日おばあさんが…。)」


 タクミは、すっかり動かなくなったショウタを前にして、公園でのおばあさんの言葉を思い出していた。



「―ただし、気をつけなきゃいけないことが、二つあるんだ。一つ目は、『何をさせるか、ちゃんと細かく説明しなきゃいけない』ってことだよ。ただ『やめて!』と言うだけじゃ、何をやめればいいのか分からないからね―。」



「(…もしかしたら、ショウタくんは僕が『持って行っちゃダメだよ!』としか言ってないから、ただ『持って行かない』ってことを守ってるのかも…そうだとしたら…。)」


 タクミは、少しの間何かを考えると、ゆっくりと口を開いた。


「…ショウタくん、その救急車のおもちゃ、僕に返して。」

「…うん、分かった。」


 タクミの言葉を聞いたショウタは、体をゆっくりと動かし、手に持っていたおもちゃをタクミに差し出した。


「…じゃあ、好きに遊んでいいよ。でも、他の人からおもちゃを取っちゃダメだよ。」

「…うん、分かった。」


 ショウタはそう言うと、誰も使っていないおもちゃを取りに、教室の隅へと駆けだして行った。


「(す、すごい…あのショウタくんが、僕の言うことを聞いてくれるなんて…このお守り、本物だったんだ…!)」


 タクミは、ショウタから受け取った救急車のおもちゃをまじまじと見ながら、ポケットの中のお守りをギュッと握りしめた。


「…ブーン!ブゥーン!ピーポーピーポー!」


 タクミはその日、久しぶりに、お気に入りのおもちゃで思う存分遊ぶことができた。





「ねぇ聞いて、お父さん、お母さん!今日ね、ショウタくんが僕の言うことを聞いてくれたんだよ!それでね、ちゃんとおもちゃを返してくれたの!」


 その日の夕食の時間、タクミは嬉しそうな様子で、両親に今日の出来事を話して聞かせた。


「あら、そうなの?きちんと言えたのね。良かったわねぇ。」

「うん!僕ね、ちゃんと言えたんだよ!ダメだよ、返して!って。」

「よく頑張ったじゃないか。だから言っただろう?嫌なことは嫌だって強く言わないと、伝わらないって。」

「うふふ、そうだね!」


 タクミは、ポケットに入っているお守りのお陰なんだけどね、という言葉が口から出そうになりながらも、両親が自分をほめてくれるのが嬉しく、満足げな様子だった。


 その日、タクミは穏やかな笑みを浮かべながら、あっという間に眠りについた。その手には、あのお守りが握られていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る