次の火曜日

 あの謎の手紙事件以来、初めての火曜日が来た。


私は変わらず、自主練のために7:00に下駄箱にいた。

先週と同じように、今週もまだほとんどの人が登校していない。


そして、もう1つ先週と変わっていない事があった。


……。

また、手紙が入っている。

でも今週はこちらももう慣れていた。

どうせいたずらだろうと驚きもせず、たんたんと封を開き手紙を読む。


――いつも一生懸命に頑張っているあなたのことが、好きです。 佐々木圭介――


文面は同じで送り主の名前だけ違った。

佐々木圭介……。

これまた、サッカー部の女子人気の高い、

少女マンガから出てきたようなイケメンからだった。


 一体誰が、何のために、こんなことをしているのだろう。

疑問には思ったが、せっかく早く来ているのだ。もう先週のように時間を無駄にしたくはない。

何度もだまされるか!!私に関わるんじゃない!という強い思いを込めて、これまた佐々木圭介と仲の良い、麻衣子ちゃんの下駄箱に突っ込んでおく。

それでも、手紙を入れる先への配慮は忘れない。

麻衣子ちゃんと佐々木圭介の2人も前回同様、とても仲が良いから、

きっと2人がなんとかしてくれるだろう。


 偶然にも、麻衣子ちゃんの下駄箱は、

私の下駄箱の里菜ちゃん側とは反対の、隣だった。

予期せず、私は毎週火曜日の朝に、両隣の子の下駄箱に怪しい手紙を入れることとなった。私も共犯になるのだろうか、と一抹の不安がよぎったが、気にしないことにした。

 私が一連の対応をしている間に、この日も下駄箱を挟んだ裏からこそこそと何かが動いている気配がした。

しかし、気にしたら負けだ、と言い聞かせて今回はフンッ、と鼻息を置いてきてやった。こいつらが犯人とは限らない、なぜか私の直感がそう言っていて、面倒なことには関わるなと忠告していた。


今日は火曜日なのに、野球部が朝練の準備をしていた。

雨続きの影響で、グラウンドを使用した練習スケジュールが調整されたのかもしれない。

唯一の悠太君との接点がなくなってしまったようで少し寂しい気持ちを押し殺し、

おとなしく教則本を見ながら、私は自主練を進めた。


  *  *  *


3日後、朝練を終えて教室に入ると、クラスの女の子達が盛り上がっていた。

「ねえ、やばくない?

 里菜だけじゃなくて、麻衣子も下駄箱に手紙が入ってたんだって!」

「まじ?え、麻衣子、本当なの?」

「うん、朝来たら、手紙が入ってて……。

 圭介君に確認したら、そういうことだったの。」

「え~~~!羨ましすぎる!!!」


黄色い華やかな声は、聞こうと意識をしなくても耳に入ってくる。

里菜ちゃんも麻衣子ちゃんも同じ2年3組であることもあり、

クラスの目立つ集団の子達はもしかしたら次は自分かも知れない、と色めきだっているのが伝わってきた。


その様子を横目で見ながら、静かに自分の席に腰を下ろしつつ、

どうして……という思いで私はいっぱいになった。

私の靴箱に入っていた手紙を、思いつく限り、手紙の送り主と仲の良い子の靴箱に入れ直しただけなのに。

何かがおかしい。おかしすぎる。

もしかしたら自分は何者かに操られていて、ラブレターを運ぶミツバチのような役目を担わされているのかもしれない、という妄想が頭の中を巡った。


でも、まだまだ盛り上がり続けるクラスメイト達をみて、気が抜けてしまった。

「まあ、いっか。」

1人呟いた。

こんなにみんな幸せそうなら、いいか。

秘密組織のラブレター配達人として、これからもこっそりやってやろうじゃない。

どんとこいだ!と意気込んだ。


変に気合いが入っている私の事を、じっと見ている人がいることにその時の私は

気がついていなかった。

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