第3話 5分休み
「結論から言うと、君の消しゴムは入れ替わってなどいないよ」
5年2組の教室。五反田くんはわざわざこっちの教室に出向いてくれた。中休みの消しバトに興じていたメンバーが集まる。
「なに? 見てもいないやつが、なぜわかる」
気が立っている市川くんは、最初から喧嘩腰だ。
「まず、バーコードの数字には、当たり前だけれど意味がある」
五反田くんは臆することなく続ける……というより、意に介していない様子だ。
「意味はあるだろうよ。考えたこともなかったけど」
市川くんがすり替えられた偽物だと主張する問題の消しゴムが机の上に置かれている。バーコード下には8桁の数字が並ぶ。
「はじめ2桁が国コード。次の4つが企業コード。次の1桁が商品アイテムコードで、最後がチェックデジット。これは読み取り間違いをチェックするための数字だね」
五反田くんがスラスラと説明する。
「何が言いたい?」
「つまり、同じ国・同じ会社で作られた同じ商品であれば、バーコード下の数字は同じだってことさ。たとえすり替えられていたのだとしても」
「俺の記憶によると、チェックデジットにあたる最後の数字は5だった。でもこの消しゴムは、見ての通り6になってるぞ」
市川くんが件の消しゴム側面を示す。49ではじまって最後がたしかに6になっている。
「君がその消しゴムの異変に気が付いたのはいつかな?」
「3時間目が終わった後の5分休みだ」
「3時間目は何の授業だった?」
その質問は聞き覚えがあった。
「5年2組は3・4時間目続けて図工。だから図工室にいたんだ」
ぞろぞろと教室を移動するから、隣のクラスの五反田くんも知っていたのかもしれない。
「今はどのクラスも静物画をやっているよね。君はその消しゴムをモチーフにしているだろう?」
「……たしかにそうだが、どうしてそれを?」
「絵を描くには、モチーフをよくよく観察する必要があるからね。その時に気が付いたのだろうと考えた」
五反田くんはポケットから優雅にハンカチを取り出し、市川くんの持つ消しゴムにそっと触れる。
「『MONO』を描くには、青と白と……黒がいるからね」
ハンカチでぬぐった後には、くっきり印字された末尾の5。
「ずいぶん上手いこと黒の絵具がくっついていたみたいだ」
5という数字の左側をそっとなぞるように付着していた細い黒の絵具。それが5を6に見せていたらしい。
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