(2)
「どうしてそのような事に? 月読様はやたらめったら神罰を下すような方ではございませんし、秋満さまだって罰を受けるような方とは思えません」
「俺は、結果的に肩代わりするような形になっただけだ。本来この罰を受ける筈だった俺の親父は、息子を盾にしたと言って更に怒りを買ってその場で滅された」
「……」
自分が助かる為に、罪のない息子に自分が受ける筈だった神罰を身代わりに受けさせるなんて。秋満さまには何の落ち度も無いのだろうから、冤罪の神罰なんて呪いと言っても差し支えないだろう。
「月読命は、俺の父を粛正した後で丁重に詫びてくれた。けれど、神罰というのは与えた神には解呪出来ないらしいな」
「その通りです。神罰は、言うなれば罪滅ぼしの為のものですから解呪する必要なんてありませんもの」
「かの神も同じ事を言っていた。だから、解呪出来るのは高度な治癒の術を使える高位神だけだと。そこで、ある提案をされたんだ」
「提案ですか?」
「ああ。神罰を与えてしまったのは自分だから、月読命御自ら解呪出来そうな神に声を掛けて俺に嫁がせると」
「……え」
この結婚に、月読命が関わっていたなんて話は聞いていない。私が聞いたのは、神嫁を望んだ人間がいたからお前が嫁げ、という伯母の話だけだ。
「罰を受けて半月くらい経った頃だったか。夜になって熱に浮かされている俺の枕元に月読命がやって来て、ようやく見つかったと知らせてくれた。一週間後には嫁いでくるから、それまでの辛抱だと」
突如知ったその事実に、動揺を隠せない。それならば、この婚姻は初めから名ばかりのもので、実際は間違って神罰を受けたこの人を助けるためのものだったと?
「解呪してもらうだけなら婚姻の儀をする必要はないんじゃないかと思ったんだが、月読命は術の効果を上げるために必要なんだと言っていたんだ。そうなのか?」
「そ、う、ですね……確かに、赤の他人よりは血族や姻族の方が、縁が強い分やりやすいです」
「なるほど。やはり縁というのは大切なんだな」
秋満さまは得心がいったという様に頷いているが、こちらはそれどころではなかった。婚姻を望む人間がいるから嫁ぐように。そう言われたから、もう神界には帰らないというくらいの覚悟を決めてやってきたのに。肩透かしも良いところだ。
「とは言え、この婚姻は解呪のための婚姻だ。だから、解呪出来た後は離縁して構わないと言われている」
「では、秋満さまもそのようにお考えですか?」
「そのように、とは?」
「私が貴方の呪い……もとい神罰を無事に解呪したら、私とは離縁するおつもりですか?」
彼の瞳をはっきりと見つめながら、問うた声は震えていた。秋満さまは一瞬だけ戸惑ったような表情になったが、その目を逸らして口を開く。
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