第10話 良い1日



小学校2年生の夏、歩き慣れた通学路で見慣れない人物を見つけた。

同じクラスの男の子、奥田蒼くんだ。


「奥田くん?」


と、声を掛けると彼はこちらを振り返った。

クラスで3番目に背の低い男の子。

窓際の席で本を読んでいることが多いけど、友達に話しかけられると本を閉じて話を聞いてくれる優しい子。


「やっぱり奥田くんだ!

こんなところでどうしたの?」


そう言った直後、彼は泣き出してしまった。

突然のことに慌てて、とりあえずポケットからハンカチを取り出す。

手渡すと受け取ってくれて、ホッとした。


「どうしたの?どこか痛いの?」


何を聞いても答えてくれなくて、どうしたら良いかわからなかった。

私は奥田くんの手を引いて、学校を目指した。

家よりも近かったし、先生のところに連れて行ってあげようと思ったのだ。


「あっ、、、ここわかる。」


しばらく歩いていると、急に奥田くんが言葉を発した。


「ここまで連れてきてくれてありがとう。

僕ここからなら帰れそう。」


さっきまで泣いていた奥田くんが、急に笑顔になった。


「春日さん、本当にありがとう。

また明日ね。」


奥田くんはもう一度頭を下げながらお礼を言うと、走って行ってしまった。

私は奥田くんから返って来たハンカチを握り締めながら、大きく手を振った。


これが、私と蒼が初めて喋った日だった。




「今日ね!

道がわからなくなってたお友達を助けてあげたんだよ!」


夕飯のカレーライス食べながら、ママに報告する。

柔らかいチキンと、ホロホロのジャガイモが美味しい。


「まあ!偉いね、詩織!」


「すごいじゃないか!

迷子の友達を助けてあげたんだな!」


パパもママもすごく喜んでくれた、褒めてくれた。

2人が食べている私より少し辛いカレーも、今なら食べられそうな気がした。




「カレーも美味しかったし!

奥田くんも助けられたし!

パパとママにも褒められたし!

今日は本当に良い日だったなあ!」


寝る前、ベッドの中で今日の出来事を思い返していた。


クラスメイトの奥田くん、優しくてちょっと可愛い男の子。

また迷子になってたら、私が助けてあげたい。


「奥田くんは、私が助けるからね。」


そう言いながら眠りについた。



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