第4話 森の中心


台風から逃れると、今度は光の海へと入り込んでしまった。

眩しくて目が開けられない時間が続く。

あまりの眩しさに目を閉じたが、光から逃れることは出来ない。

詩織の頭を抱え込むように胸につけ、自分の目は左腕で塞いだ。

右手で手綱をしっかりと握る。


どれくらい経っただろう。

最初に気づいたのは音だった。

鳴り続いていた風の音が止んだのだ。

僕は恐る恐る左手を目から離す。


空は青く澄み渡り、太陽が顔を覗かせる。

眼下には大きな湖と、草原が広がっていた。

雲の中とは別世界だった。


「蒼、、、?」


絶景に見惚れていた僕は、詩織の声と動きに我に帰る。


「目が覚めた?頭は痛くない?大丈夫?」


「ちょっと痛いけど、大丈夫。

それより、、、恥ずかしいから離してもらってもいいかな、、、。」


詩織の赤い顔が僕に伝染する。


「ごめん!!!

落ちたら危ないな〜って思って!

ごめん!!!」


「落ちないように支えてくれてたんだよね!!??

わかってる!!!大丈夫!!!ありがとう!!!」


詩織の顔を見ることができない。

多分、彼女も僕の顔を見ていないだろう。

目のやり場に困り、空を見つめた。

先ほどまで雲の中に居たのが嘘のように晴れやかだ。


「蒼、湖の真ん中降りられそうじゃない?」


詩織の言葉に湖の中央を見ると、小さな島があった。

周りの草原と同じように、草だけが生えた島だった。

確かに、降りられそうだ。


「、、、降りてみよう。」


鴉の高度を落とし、島へと向かう。




上空から見た島は教室くらいの大きさに見えたけど、実際降りると体育館くらいは広かった。

バスケットコート2面分はありそうだ。

注意深く島を観察しながら歩く。


「、、、これ、なんて言うんだっけ?」


詩織が指差す先には、小学校の校庭においてあった足のついた箱があった。

上から見た時は気づかなかった。

理科の授業で使った気がするそれの名前を、すぐに思い出すことは出来ない。


「百葉箱だ、、、。」


しばらく考え、頭の中から答えを引っ張り出した。


「それ!百葉箱!

なんでこんなところにあるんだろう?」


僕と詩織は百葉箱を見つめていた。



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