第3話 台風の“目“


「目って、、、これ!!??」


「そうみたい、、、。」


浮いている眼球を見た詩織が背後で驚いている。

僕も心底ビックリしていた。

眼球は上下、左右をキョロキョロと忙しなく見渡している。


「これ、、、どうしたらいいの?」


レアちゃん、ノアくんから対処法を聞いていなかった。

まさか眼球が現れるとは思っていなかったから。


「蒼、どうする?

キャッ!!!!!!」


小さな悲鳴が聞こえて詩織の方を見る。

額から血を流し、意識を失っていた。

漫画で読んだことがあるが、血の気が引くとはこういうことなのだと思った。

自分の体が氷になったかのように、寒くなった。


「詩織!!??」


彼女の腕を掴み、必死に自分のそばへと寄せる。

風で飛んできたらしい大きな枝が、鴉の背、彼女が居た場所に落ちていた。

これが額に直撃したようだ。


「詩織?大丈夫?詩織!!!」


声をかけ続けるが、詩織の意識は戻らない。

そうしている内に、“目“が動いていた。

キョロキョロと周囲を見ながら、僕らのそばから少しずつ離れている。

このまま暴風雨の中に戻されたら、もう2度と見つけられないかもしれない。

鴉よりも速く動き出すかもしれない。

そうしたら、、、僕の力で支えられなかったら、、、詩織は落ちてしまう。


「ああ!もう!!!!」


詩織に直撃した枝を拾い、握りしめる。

気づかれたら逃げられる気がして、じわじわと少しずつ“目“との距離を詰めた。

後少し、もう少し、、、今だ!!!

“目“が下を向いた瞬間、枝を持った右腕を大きく振り上げ、僕は“目“を思いっきり殴った。

殴られた“目“は震えながら天を見た後、しばらくして地面へと落ちて行った。


“目“が落ちると辺りは静けさを取り戻し、ただ真っ白なだけの世界へと戻っていた。

僕の呼吸が全力疾走した後みたいに乱れている。

心臓は爆発しそうな程の音を立てる。


呼吸を整え、握っていた枝を捨てる。

意識のない詩織を自分の前に座らせ、抱えるようにして雲の森の中心を目指す。

何があっても詩織を落とすことだけはしないと誓い、彼女を支える腕に力を込める。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る