コイツが犯人だ!



 さて、シュークリーム。

 買ってきたのは、今日の午後だ。

 このころの僕の仕事はヒマな事務所の電話番だ。一日じゅう時間をもてあましていた。昼食のあとすぐ買い物に出かけて、その間、家にはいなかった。


 帰宅したのは三時すぎだ。その途中、最後にコンビニによって、そこにしか売ってないプレミアムシューを買った。自分へのご褒美だ。一人で買い物えらいね、かーくんって。


 で、重い荷物持って帰ってきて、食品はすぐに冷蔵庫へ。このとき、シュークリームもいっしょに冷蔵した。まちがいない。なぜなら、わざわざ、つぶれないように、一回、場所を置きかえたからだ。重いマヨネーズの下にならないよう卵のよこに。


 だから、別のどっかに置いたとか、袋に残ってるとかじゃない。確実に冷蔵庫のなかである。


「僕のシュークリームを最後に目撃した人、誰?」


 容疑者Aがにぎりこぶしを口元に持ってきて考えこむ。


「兄ちゃんが見たのは、麦茶とりだしたときだな」

「何時ごろ?」

「三時半?」

「僕が縁側でミャーコとたわむれてるときだね」


 そうだ。ミャーコと遊びながら、途中で一回、大阪の友達の三村くんに電話をかけたんだった。今日は遊びに来るって言ってたのに、なかなか来ないからだ。そしたら、昼寝でもしてたらしく、寝ぼけた声でムニャムニャ言ってた。あの感じなら、来るのは夕方以降だろう。


「僕は四時すぎにマンゴージュース飲もうと思って、冷蔵庫あけたけど、シュークリームは見なかったですよ?」と、容疑者B。蘭さんがそう主張する。


「四時すぎか。僕が洗濯物とりこむために、二階のベランダにいたころだね」


 そして、それが終わって、四時半に見たときには、シュークリームは消失したあとだった。


「そうか。犯人は三時半から四時までの三十分のあいだにシュークリームを盗んだんだ」


 すると、容疑者AとBは顔を見あわせた。


「猛さん。その時間、僕ら、居間でいっしょでしたよね?」

「そうだな。テレビ見ながらゴロゴロしてた」


 ええー! 容疑者二人にアリバイが!


「そうだ。やっぱり犯人は兄ちゃんだよ。麦茶飲むとき、こっそりシュークリーム食べたんだ! だから、次に蘭さんが見たときにはなくなってた」

「でも、かーくん。それ言うなら、蘭がマンゴージュース飲むついでに菓子を食ったかもだろ? なかったって嘘ついてるんだ」


 うーん。どうにも堂々巡り!


 すると、そのとき、カチャリとキッチンのドアがあいた。


「うぎゃー! オバケー!」

「なんでやねん。おれや」

「なんだ。三村くんか。やっと来たんだね」

「お? おお……」


 なんで、よりによって、たてこんでるときに来るかなぁ。

 まあいい。犯行時間、三村くんは電車のなかだ。瞬間移動かタイムトラベルでもできないかぎり、三村くんは確実に白。


 ちなみに、うちは京都五条。梅田から阪急乗ってきたとしても、五十分はかかるからね。僕が電話かけた三時半には、三村くんは自宅だったし、これ以上ないほどのアリバイがある。


 今は犯人をつきとめることが先決だ。


「犯人は兄ちゃんなの? それとも蘭さんなの? 正直に言ってー!」


 こうなればもう犯人の自白に頼るしかない。

 僕が得意の泣き落としにかかろうとした、まさにその瞬間だ。


「かーくん。犯人がわかったよ」


 探偵兄ちゃんが言いはなった。



 *



 な、なんだって? 真犯人がわかった?


「兄ちゃん。やっと白状する気になったの? 今ならプレミアムシュー二個でゆるすよ?」


 猛はフッと白い歯見せて笑ったね。


「バカだなぁ。かーくん。犯人は兄ちゃんじゃないよ」

「じゃあ、誰? 蘭さん?」


 猛はゆっくりと首をふる。

 ここからは兄の解決編だ。五分でお願い。はい、どうぞ。


「真犯人はコイツだ!」


 猛が指をつきつけたのは、なんと、三村くんだ。


「えっ? 三村くん? それはないよ。兄ちゃん、自分が食ったからって、三村くんのせいにしちゃダメだよ」


 チッチッと猛は指をふる。


「そもそも、かーくんはなんで、三村が犯人じゃないって思うんだ?」


「だって、たった今、うちに来たんだよ? 大阪から京都まで、乗りつぎや徒歩の時間もよせたら、一時間半はかかるよね? それで、三時半には自宅にいたから、四時にうちで犯行は不可能だよ」


 不可能犯罪。

 さすがの名探偵猛も、今回ばかりはお手あげか?

 てか、自分が食ったんだよね?


「それが、そもそも違うんだよ。かーくん」

「何が?」

「だから、三村が今うちに来たっての」

「えっ? だって、さっきまでいなかったし」

「いたよ。三村はずっと、おれの部屋にいた」

「えっ?」


 すると、三村くんがアクビしながら自白した。


「昼からおったで?」

「ええー!」

「猛の部屋で昼寝しとった。かーくん、いっぺん、おれのスマホに電話かけてきたやんか」

「あのとき、すでに、うちにいたの?」

「おったで」


 な、なんてことだ。そうなると、ぜんぜん構図が違ってくる。


 猛がもっともらしく、うなずく。


「そう。三村はかーくんが買い物行ってるあいだに、うちに来てたんだ。そのあと、ずっと、おれの部屋にいた」

「なんで、そのこと教えてくれなかったんだよ!」

「起きてくれば、勝手に顔出すと思ったから」


 たしかに電話かけたとき、三村くんは自宅にいるとは、ひとことも言わなかった。ムニャムニャじゃわかんないよ!

 ハッ! まさか、あのとき目がさめて、「喉かわいたわぁ」とか言いつつ、キッチンへ行ったんじゃ?

 僕、あのあと二階にあがったもんね。そ、そうか! そのすきにかぁ!


 すると、真犯人がいけしゃあしゃあとつぶやく。


「なんやいな。さっきから、ガチャガチャさわいどんなぁ」

「……僕のシュークリームがないんだよ」

「あっ、あれ。かーくんのやったんか。食ったで。小腹へっとったんでな」


 やっぱり!


「猛。逮捕して」

三村鮭児みむらけいじ。午後四時五十二分。窃盗の容疑で逮捕する」

「お縄はかんべんしてぇな」

「まっとうになるんだぞ」


 こうして、東堂家のシュークリーム消失事件は解決した。

 真犯人(三村くん)には、プレミアムシュー三個おごらせたのであった。




 了

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東堂兄弟の5分で解決録8〜シュークリーム消失事件〜 涼森巳王(東堂薫) @kaoru-todo

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